*【花形】アオハルアゲイン
名前変換
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「倫乃ちゃん。」
なんで急に名前で呼ぶの。
この展開、まずい。
私なりに、脳みそがフル回転した。
気付かないふりしたまま、後悔するんじゃないか。
このままでいいのか。
いいじゃない、ダメで元々、言うだけ言って、なんならもう会わなきゃいい。
それこそ、忘れるまで、あいつらの誰かに付き合ってもらって飲みまくるんだ。
そしたら、また、笑い合える。
それでいい。
それがいい。
この調子では、一生引きずる。
一生、あの笑顔に心を抉られ、削がれ続ける。
だから。
「すみません。」
遮るように口を開く。
「私、もうご一緒することは出来ません。」
「…忘れられない人がいるので。」
絞り出すように言い切ると、鞄から財布を出そうと荷物を漁る。
「…すみません、彼女、俺と先約がありまして。」
骨ばった手が万券をテーブルに置いて、私の手を取った。
「倫乃、待たせて悪かった。」
透が、居た。
「ちょっと!…あのっ、」
私は透を軽く睨み、そして営業さんを振り返って弁解をしようとした。
違う、こんなはずじゃない。
なんで居るのよ、なんで来たのよ。
「池内ちゃん、また誘うね。今度はみんなで飲みに行こう!」
営業さんは相変わらず人懐こい笑顔で手を振ってくれた。
私は泣きそうで、会釈するのが精一杯だった。
彼は最後まで笑っていた。
「…あーあ、なんか青春だなぁ。」
ありがとうございました。
貴方との時間、とても楽しかったです。
嘘ではありません。
「透、透!」
私の手を引いて透はどんどん歩いていく。
どこへ行くと言うのだ。
こんな金曜の夜に、席の空いているお店なんてないだろう。
大通りに出ると、折良く客を下ろしたタクシーを見つけ、乗り込む。
「ねえ、なんで場所知ってたの?」
「藤真。」
……あいつか。
「あんまりおちょくらないで欲しいわ。」
「迷惑だったか?」
「は?」
繋がれたままの手を、ぎゅ、と握り、透がこちらを見ていた。
「連れ出したこと。」
「…えっと。」
やめてよちょっと。
そんな切ない目で見ないでよ。
私は、目を逸らして俯いてしまった。
ただ、その手は離さなかった。
タクシーが止まる。
私が財布を出す前に、透が支払いを済ませてしまった。早いよ…。
タクシーが止まった場所は、透の住むマンションだった。
「話したい。」
透がそう言って、オートロックを開けた。
歩き出そうとしない私の手を取って、ずんずんと進んでいった。
グラスに注がれたスパークリングの日本酒。
「年末、置いて行ったろ。」
「…記憶にございません。」
多分私がリクエストしたお酒なのだろう。
未開封のまま残されていた。
乾杯し、口に含めば、少し甘めのそれが喉を通り、胃を熱くする。
「くゥー!やっぱ美味しー!」
「はいはい。」
呆れたように笑う透は、いつも通りだ。
しかし、すぐに真剣な表情になる。
少し、思い詰めたような色が見える。
「倫乃、俺は倫乃が好きだ。」
あまりのストレートな表現に鼻白む。
もっと何かあるでしょ?
なんなのよ、なんでそんな…
「私は、」
決意して営業さんの誘いを断ったくせに、今更なにを迷ってるんだ、私は…。
「……私は。」
「わかった。」
透がテーブルにグラスを置いた。
なにが?なにがわかったの?
私のグラスも取り上げてテーブルに置く。
「ちょっと!」
「いい、答えはわかったから。」
透が眼鏡を外して、
私の肩を掴んでキスをした。
「倫乃も、俺のこと好きなんだろ、わかった。」
…な、な、な、
なんだそれ!!!!
「ちょっ、ちょっと、」
「なんだ、違うのか。」
「違わないけど……。」
「じゃあ、いいよな。」
「今夜は帰すつもり、ない。」