*【花形】アオハルアゲイン
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「ここ好きなんです。また来られてよかった!」
はしゃぐ彼女に、自然と笑みがこぼれた。年末のお詫びに、気に入ってもらえたバーに連れて来た。ここは研究の関係者に教わった、言わばとっておきの場所だ。
ホテルの最上階にあるそのバーは、夜景が綺麗なのもそうだが、気の利いた酒も出してもらえる。誰かさんたちと浴びるように飲む酒とは違い、ゆったりと良い酒を飲みながら会話を楽しむのにはもってこいだ。
「へえ、じゃあ調整うまくいったんです?」
「なんとか。長かったな…。」
実験も一段落つき、資料をまとめるところまで漕ぎ着けたので、漸く余裕のある日常に戻った。彼女とも久し振りに色々話したような気がする。
「なんだか、可愛いですよね。」
「は?」
「あんな細かい作業を、大の大人が…しかも、透さんに関しては大きな体で、ふふ。」
鈴を転がすような声で笑う。
何がそんなに面白かったのだろうか。
「おかしいか?」
「おかしいというか、微笑ましいです。」
「一生懸命になっている姿、素敵です。」
ー辛気臭い研究者のくせに。
俺はため息をついた。
「辛気臭い研究者、ではなく?」
「酷い言われようですね、藤真さんですか?」
なおも笑う彼女に、つられて笑う。
「いや、違う。だが…そうだな、同じ部活の仲間だ。全く失礼な話だ。」
「……そうですね。」
腕を組んで椅子の背もたれに体を預ける。
彼女の笑顔に寂しさを感じた気がした。
「…探した。」
「藤真?」
現れるはずのない人物に、俺は目を瞬かせる。
平静を装っているようだったが、髪が乱れているのを見るに、急いで来たようだった。
「お前さ、中途半端なことしてんなよ。」
そう言って、俺に詰め寄る。
こいつは、なんだっていつもこうなんだ。
「いいのか、本当に手遅れになるぞ。」
鋭い双眸が俺を追い詰める。
耐えきれなくて目を逸らしてしまう。
「…行ってください。」
笑顔で彼女はそう言った。
「今度また埋め合わせに飲みに連れて行ってくださいね。」
「今度は、後輩として。」
別れの言葉だと気付くのに少し時間を要した。
思い至って、胸が苦しくなった。
気付いて、いたのか?
「……ああ。ありがとう。」
確かに彼女のことは好きだった。
その気持ちに嘘も偽りもなかった。
ただ、今はすっかり違うところに気持ちが行ってしまった。
それを容易く見抜かれてしまった。
この聡明な女性は、俺には勿体ない。
「あーあ、花形、後悔するなぁ。」
藤真がおどけて言った。
しかしその表情は複雑そうだ。
俺はバーテンダーに酒を頼むと、彼女に向き直る。
「愛していた、嘘じゃない。」
「ふふ、残酷な人。」
「…ありがとう。君に出会えて本当に良かった。」
振り返らなかった。
彼女は俺の前では泣かないから。
「……どうしてこんなに記憶力が良いのかしら。」
彼女のために頼んだのはキール。
初めて彼女が笑顔になったカクテル。
あの時傷ついていた彼女を慰めたくせに、俺がまた傷付けた。
『最高の巡り会い』
ありがとう。君に会えて、本当に良かった。