*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「あー…。」
「どうしたの?」
立ち上がろうとしたのを押さえられて、ソファに座らされたのだけど、何かを思い出した彰が項垂れる。
「…忘れた。」
「何を?」
「ナニ、を。」
一寸間が空いて、私は思い至って赤面する。
「神様はいけずだなぁ。」
その時、インターホンが鳴った。
モニターを確認すると、
「…ハル兄だ。」
仕事帰りの兄が急に訪ねてきた。
彰と顔を見合わせて、笑う。
「神様、ナイス采配じゃない?」
「良かった、うっかりおっ始めなくて。」
おっ始めるとか言うなよ。
裏拳で腹の辺りに一発見舞って玄関を開けに行く。
彰先生は油断していたらしく、その場にしゃがみ込んだ。
「いやー佐和が泣いてないか心配で。」
「嘘つき、暇なんでしょ。」
ハル兄の所には先週赤ちゃんが産まれた。
予定日通り産まれるという珍しい芸当をやってのけた息子を優等生だと言って笑っていた。
里帰り出産の為、奥さんと赤ちゃんは実家に戻っており、ハル兄は束の間の独り暮らし。
「秋也のとこは10月予定だろ、兄貴は12月予定、なんかラッシュだな、子作りの。」
「家族計画後記をぶち込むんじゃねえ。」
「え、由佳さん妊娠してるの?」
「そー。ごめん、安定期入ってから言おうと思って。」
「隠してたのはそれ?」
「うん。」
オムライスを食べながら、ハル兄は練習試合のビデオ見せろと催促する。やれやれ。ビデオカメラを持って来て、再生する。
「お前は試合やってないんだっけ。」
「うん。」
「だわな。見た感じ相手になるやついねえもん。3年は皆引退?」
「うん、予備校行ったりしてる。」
「お前の学年、お前以外皆賢いもんな。」
「うっさい。ごはん食べに来たの?」
「悪い虫が来てねーか見に来た。」
そう言ってビデオカメラから顔を上げ、彰を見る。
「彰ぁ、妙なことしてねーだろうな。」
「…してませんよ。」
「なんだよ!お前大丈夫か、健全過ぎて逆に不健全。」
「はは…。」
「どっちなんだよ、頼むから困らせないでやって。」
「…で、実際どうなんだよ彰。」
「どうというのは?」
佐和が浴室乾燥機にかけた洗濯物を見に行ってる間に、試合を見終わった春翔さんがこちらを見る。
「佐和だよ。お前ら結構長いだろ、あれのどこがいいんだよ。結構荒いじゃん。」
そう言いながらも、可愛がってるのが伝わってくる。
「すごく行き届いてますよね、育ちがいいというか。ご両親やお兄さんたちの姿を見ているんですかね。」
へえ、と呟く春翔さんは満更でもない様子だ。
「本当はさ、親父、佐和に剣道やらせたくなかったんだよ。」
「え?」
「でも、やってなかったらお前と出会うこともなかっただろうし、正解だったよな。」
「…はー、よかった。」
本音だ。佐和に出会えなかったら、そりゃそれなりに過ごしていただろうけど、色々中途半端になってただろうな。
「頼むな、彰。あれで結構脆いから。」
知ってますよ。
その言葉を飲み込んで、ひとつ頷いた。
「なんの話?」
乾いた洗濯物を持ってこちらに来た佐和は首を傾げている。
「子供は何人欲しいのか聞いてたんだよ。作るの好きそうだし、彰。」
「何言ってんだ、馬鹿!」
…恐ろしい人だな。
ハル兄が帰る頃、雨は上がっていた。
「夏って感じだな。」
「ハルくんが連れて来たんじゃない、雨雲。」
「はは、それ面白いな。」
呑気に笑う彰を見上げ、ふと思いついた事を尋ねる。
「子供、欲しいと思う?」
彰は少し驚いて、すぐに微笑む。
「どちらでも。」
「居なければ佐和を独り占めできるし、居たら子供相手に佐和のこと取り合おうかな。」
大人気ないけど、なんとなく彰らしくて可愛いと思ってしまった。
「そんな遠い未来の前に、受験か…。」
ほんと、それ。