*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「旅行?」
「うん、そー。この先忙しくなるから、週末にヒロくん家族とお父さんお母さんで2泊3日。」
由佳ちゃんのつわりもおさまり、安定期に入る頃、お腹が大きくなる前に旅行に行くらしい。
もちろん私は留守番。授業もあるし部活もある。
異議なしだ。1人なら1人で楽だし。
「佐和ってそういうとこさっぱりしてんのな。」
「そう?私は私でやりたいことやれるから気にしないだけ。」
「それをさっぱりしてるって言うんだよ。」
土曜は午後に練習試合、日曜はオフ、月曜は授業。そんなに厳しい日程でもない。
私の合宿が始まる頃には由佳ちゃんのお腹が大きくなって来るだろうし、今を逃すときっと辛い。
赤ん坊が産まれたら何も出来なくなるだろうし。
「うーん…なかなか大変だよなぁ。」
「何が?」
「話せる時期になったら話す。」
「りょーかい。」
彰は深追いしてこない。こういうとこがありがたい。
「彰くんには話してもいいのよ?」
「そーなの?」
朝食時、そう言って由佳が笑う。
「もう安定期に入るし。」
「んー、わかった。タイミングがあれば。」
佐和は支度を済ませ、玄関を出る。
店には臨時休業の札が下げられていた。
車内の掃除をする父親に、気をつけてね、と声を掛けると、佐和は竹刀を抱えていつも通り学校に向かった。
「はー、疲れた!」
「そんな飛ばして大丈夫?」
「寧ろ力が余ってるから発散できてスッキリする。彰こそ二部練おつかれ。田岡先生気合入ってるなぁ。」
今回は、人数的に武道場だけで済む規模だったので体育館は借りていなかった。
仙道は休憩中に少し覗きに行ったが、佐和は試合がなく、上座で先生と一緒に稽古を受ける側に居た。それがまた大繁盛で、男女問わず殺到していた。一人一人への稽古も助言も手を抜かない。
「今年は3年生引退しててさ。私だけ残ってんだよ。相手もインターハイないから下級生だけ。」
「そーなんだ、なんか先生ぽかった。慣れてる?」
「通ってる剣道教室で子供や後輩相手に教えることもあるかな。でも、それだけ。」
あんまり行けてないけど、と加え、笑う。
「1年の時に一度見た時とは違ったよな、うまく言えねーけど。」
「そーかもね。怪我して変わったのかも。」
(アキ兄にも言われたなぁ。)
その時、鼻先に雨粒が落ちて来た。
「げ、雨。」
「やだ、夕立かな。」
急ぎ足で家路を急ぐものの、雨脚は強まる一方。佐和の家に着く頃には土砂降りとなった。
「最悪、天気予報雨だっけ。」
「夏だしな。ほら、風邪引くから早く家入れよ。」
「彰、まさかこっから帰んの?」
「じゃなきゃどうするっていうんだよ。」
「取り敢えず家寄ってきなよ。」
仙道は咳払いをし、あのね、と佐和の眉間に人差し指を押し付ける。
「家族が居ないって分かってて男が女の子の家に上がっちゃまずいだろ、色々と。」
「ケースバイケースだろ!そんなこと言ってる場合じゃないって、大事な時なんだから!」
仙道の言葉を一蹴し、佐和はその手を引くと家に入る。仙道を洗面所に押し込むと、湯船にお湯を張る手配を済ませる。
「すぐ沸くから、ちゃんと温まって。着替えとタオルは持ってくる。濡れたもの…と、今日使ったものも洗濯して乾燥機回しちゃおう、出しとけよ。ほら、さっさと入る!」
佐和は早口に指示を出して、やや乱暴に洗面所の戸をしめる。
仙道は目を瞬かせ、呆然としていたが、やがて笑いがこみ上がってきた。
「敵わねえ。」
「うーん…お兄ちゃんのお下がりなら着れるよな。」
クローゼットの引き出しから大きめの半袖Tシャツとパーカー、ハーフパンツを取り出す。全て秋也のお下がりだ。
「あっくんは着方が上手いから状態いいなぁ。」
洗面所に戻ると、脱衣用のカゴに着替えとタオルを置く。洗濯を始めようと、自分の服も洗濯機に入れて回し始める。
(やけに静かだな、寝てんのか?)
「彰?起きてる?タオルと着替え置いておいたからな。寝てちゃダメだよ?」
声を掛けるが、返事はない。
「おい、大丈」
言葉を遮るように、突然浴室の扉が開き、手が伸びてくる。
佐和は急なことに驚いたが、咄嗟にその手を掴み返す。
「何しようとしたんだ、オイコラ。」
「一緒に入ろうと思って…この反射神経は想定外なんですけどー。」
仙道はやや不満そうに口を尖らせたが、にっこり笑うと、器用に腕を返して手首を掴み返し、浴室に引き込んだ。
「ちょっと!着替えたんだから!」
「じゃ、脱ご。」
「やだ、離して…」
「モタモタしてると濡れちゃうよ?」
嬉々としてTシャツに手を掛ける仙道に、佐和は溜息をつくと、一気に脱いだ。
「大胆だなー。」
「うっさいばか、もういい、入る!」
「あはは、男前〜。」
(気持ちいいね〜。)
(……そうだね。)
(冷静だなぁ。もっと良いムードになるとか、)
(…。)
(ごめんって。)