*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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(あーあ、終わった。)
8月初旬、佐和はちょっとした脱力感に浸っていた。
(なんだか、終わってみると、呆気なかったな。)
インターハイが終わり、3年生が引退。数ヶ月だったが濃密な時間を過ごしていたのは確かで。
(寂しい…のかな。)
インターハイ後は1日オフがあったが、その翌日からはすぐに新体制で部活が始まっていた。
(お盆が終わったら引退試合だったっけ。)
リュックを背負い、竹刀袋を抱えると帰路につく。同級生たちは先に帰っていたので1人のんびり歩く。
夕焼けが広がる空を見上げて歩いていたが、体育館からボールの音が聞こえて足が向く。
(前もこんなことあったな。)
流石に今回も仙道なんてことはないだろ、と佐和は思いながら、でもそうだったらいいのにとも思ってしまう自分がいることに、なんの違和感もなかった。
(いた。)
いつかと同じように仙道が1人で練習をしている。今回は先にポカリも買ってきた。
(いつ声をかけようかな。)
しかし、その時とは違い、声をかけるタイミングがなかなか見つからない。
しばらく見ていると、仙道がダンクを決めた。ボールが弾み、佐和の方へ転がってくる。仙道は暫く手を膝に置き息を整えていたが、顔を上げた時に佐和と目があった。
目を白黒させていたが、やがてにっこり笑って近付いて来る。
佐和はボールを拾い、手渡した。
「お疲れ。中入ってもいい?」
「お疲れ。もちろん、どうぞ。」
「こんなん片手で持てねーよ。」
佐和は試しにボールを片手で持とうとするが、そもそも手に収まらない。
「高辻の手は小さいからなぁ。」
「仙道の手がデカいんだよ。私、女にしては大きい方だと思うけどなぁ。」
それにしてもあちーな、と佐和はウインドブレーカーを脱ぎ、中に着ていたポロシャツの胸元を揺らす。その時仙道は何かに気付き、それを指差す。
「それ、なに。」
「それ…ああ、ツキを外されたんだよ。稽古中のもあるし、大会の時のもまだ残ってる。」
首筋にできた擦過傷のようなものや、鎖骨辺りのあざ。
(キスマークみたい。)
それは口には出さなかったが、仙道は知らず手を伸ばしていた。する、と首筋の擦過傷の辺りを撫でると「こら!」という声とともに佐和が抗議の目で睨んでくる。
慌てて手を引っ込めて「痛いの?」と聞いた。
「控えめに言って、すごく痛い。」
「怖え〜。」
そういえば、と笑いを収めて佐和にむきなおる。
「インターハイ、どうだった?」
「あー…うん、」
「準優勝しちゃった、かな。」
仙道は少しの間、瞬きを忘れた。
「今なんて」
「準優勝。決勝で先輩に負けて…」
「……すげ。」
仙道が、はは、と笑うと、佐和も嬉しそうに笑う。
「負けたのにもらう賞って複雑だけど、嬉しい。」
「佐和ちゃんは頑張ってたから素直に喜べばいいだろ。」
仙道は佐和の頭を撫でてやる。
「陵南ワンツーフィニッシュか。」
「そうなんだよ!すごいよな!」
「でも、少し元気ないのはどうして?」
佐和はその言葉に苦笑いし、口を開く。
「そりゃ、先輩の引退は寂しいよ。」
寂しそうに笑うその表情に、仙道は眩暈を覚えた。
(こりゃ重症だ…。)
まいったな、と心の中で呟くと撫でていた手を離して今度は鎖骨辺りの痣に指先で触れる。
「こんな風に気安く男に触らせてちゃダメだよ。」
佐和は仙道の手を退け、不敵に笑う。
「そういや仙道くらいだな、私に触って来たのは。」
(あんまり煽ってくれるなよ……。)
やれやれ、と両手を上げ、「ここで着替えちゃうけど、居る?」と冗談めかして尋ねれば、佐和は「出てく出てく。」と笑って体育館の外へ出て行った。
「あー…危ねえ。」
仙道はTシャツを脱ぎながらひとりごちる。
(あれ無自覚なのか?怖えな。)
佐和の仕草や表情、言葉の全てが拷問のようだった。
(これから大丈夫かなぁ…。)
ぼんやり体育館の天井を眺めていたが、外から佐和が何か言っているので慌てて着替えを済ませた。
(日が暮れちまうぞ。)
(ソウデスネ。)
(なんだよ、感じわりーな。)