*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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個人戦は一足早く県予選が行われた。
暑さがじわりじわりと増してくる5月の終わり。
「大丈夫か。」
「当たり前じゃん、勝つよ。」
個人戦、アキ兄は仕事が休みだったので駆けつけてくれた。
「なんかお前、剣道変わったよな。」
「そう?」
「うん、いい変化。怪我の功名かね。」
決勝まで上り詰める。インターハイは決まりだけど、
「やるからには勝たないと。」
『おめでとう!今回は肩ひっついてた?』
「当たり前だろ、もう抜けないよ。」
個人優勝を決め、その晩に早速彰に電話をした。
左腕にはアクアマリンのブレスレット。
右の薬指には指輪。
彰から贈られたアクセサリーを厄除けのように身に付けている自分に苦笑してしまう。
もちろん、剣道をやっている間はつけてなんかいられないんだけど、お守りのように鞄に入れている。本当に守られている気がする。
『佐和は約束を果たしてくれたんだ。』
「…あはは、うん、そうだね。全国だよ。」
『俺も、行くから。』
静かな決意に、どきりとする。
電話でよかった。
対面だったらその雰囲気に当てられていたに違いない。
電話は電話で……まあ、その、
色気があるよね。
本当に同い年なのかわからなくなる時ある。
「うん、待ってる。」
来月には団体戦もある。
彰の試合と、重なってしまうけど。
トーナメントを勝ち進めば、観に行くとは出来ないと思う。
『俺は、佐和が同じ時間にに戦ってると思うと心強いなぁ。』
「私も心強いよ。負ける気しない。」
『じゃ、勝とっか。』
「あはは、なんか本当に勝てる気がしてきた。」
『俺も。』
バスケ決勝リーグの他の日の試合も、今年に限って遠征が入っている。なぜか今年は去年より顧問の気合を感じる。いいけど…。
3年になってから彰と休日にゆっくり過ごす時間はまず取れなくなった。
帰りも遅い。
平日はなんとか一緒に帰るけど、疲労困憊の体を引きずって帰るような毎日で、口数も減っているように感じる。私は、言葉はなくても一緒にいるその時間が幸せで、繋がっている指先が熱くなる。
『明日は練習?』
「試合の反省会。彰は?」
『練習。あーもう体がバッキバキ。』
「うえ、彰が言うなら後輩たちもっとじゃない?」
『かもなぁ。でも、悔いは残したくねえし。』
電話の向こうの彰の姿を想像する。
…会いたいな。
『明日、一緒に帰れる?』
「うん。多分私の方が早いから待ってるよ。」
『本当は、今からでも会いに行きたい。』
「ダメだよ。」
心の声が聞こえたのかと思って驚いた。
少し声が上擦ったかも知れない。
『わかってるって。顔見るだけじゃ済まなさそうだし。』
「ますますダメ。じゃ、また明日ね。」
『ははっ、うん、おやすみ。』
「おやすみ。」
私たちは離れることを知らない。
だから、この日々が尊いものだと、まだ気付いていなかった。