*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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年末年始は実家で過ごした。
いつかは佐和と年越しってのは夢だけど、あちらにはあちらの都合があるわけで。
「うちはそんなに気にしないけど、あんま帰れないんだから実家のご両親に顔見せなよ。お姉さんだって結婚しちゃってんだし。」
とのことなので、帰ることにした。
だから、また戻ってきたらすぐ会いに行くね、と約束した。
「慌てないで、ゆっくりしてきなね。」
そう言って、肩の高さに上げた右手の薬指には、俺が送った少し緩い指輪。
ペアリングでもいいかと思ったけど、俺は失くすだろうから、やめておいた。
きっと怒られるんだろうな、とか想像してしまう。
やがて1月が行き、2月が逃げ、3月が去っていく。
今年はお互いの誕生日を忘れることもなく過ごせた。
彰はなぜかいつも私の欲しいものを知っていて少し怖い。
春休みは多忙を極めた。
大学の練習に参加するため、西は大阪から東は茨城まで色々。なかなか無茶なスケジュールだったが、それに付き合う先生がすごい。
この人、結婚してるのに。
奥さんめっちゃ美人なんだよ、びっくりする。
般若のくせに。
いや、いい先生だもん。
寧ろ見る目あるね、奥さん。
年度替わりの時期は部活は禁止なので課題とにらめっこだ。
春休みに課題なんてあんまりないよね?
違うんだ。
理系のくせに物理が悪すぎて、心配してくれた先生の気持ちなのだ。そう、気持ち。
このプリントの塊が、先生の気持ち。
重いな!
彰先生は同様に化学の先生からお気持ちを頂戴している。
「というわけで、君たちの力を見せて欲しい。」
「もっと謙虚になれないかな。」
「申し訳ございません宗一郎先生。」
「まーいいけどね。復習にもなるし。」
「ありがとうございます美代ちゃん先生。」
この2人は本当に成績優秀で羨ましい。
宗に関してはいつ勉強してるの?って感じ。
「お前ら2人は違うところで才能発揮してるんだから。」
そう言って物理の問題を見ながら笑う宗は美人だ。やれやれ、神様は不公平だな!おのれアボガドロ!
…ちがう、これは化学だ。
「やりゃあ出来るんじゃない。なんでやらないのよ。」
美代が溜息をつきながらシャーペンで彰の髪をつつく。
「眠くて。」
「馬鹿ね、こうやって余計な時間取られるでしょ。」
「勉強になりました。」
「もう。」
呆れた声の美代は体を伸ばすとこちらを見る。
「宗一郎、佐和はどう?」
「こっちも。やれば出来るのに。」
「へ、へへ…。」
「このカップルは本当にもう。」
出来上がった課題をクリアファイルにしまい、私は新しい飲み物を淹れにキッチンに立つ。
「2人は進路どうするの?」
宗が彰と私を交互に見る。
「私は体育学部だよー。」
「俺も。」
「大学はまだ決めてないの?」
練習を思い出し、やや血の気が引いた気がした。大学生、桁違い。部員の質も練習の質も。
「私は…深体かつくばか豊田か…できれば遠くには行きたくないけど。」
「何になりたいの?聞いたことないよね?」
手伝ってくれる美代が首を傾げる。
「俺も知らねー。」
「仙道も知らないの?なに、人には言えない仕事?」
宗が真顔で返してくる。
「そんなわけないだろ。」
コーヒーをテーブルに並べながら、少し睨む。
奥歯に何かが詰まっている感じがして気持ちが悪い。
「…先生だよ、センセー。今言うと説得力ないだろ。」
プリントの束を見遣り、溜息をつく。
「教免取るんだ、へー。」
「佐和ならいい先生になるよ。」
宗と彰が笑顔でこちらを見上げる。
「仙道は?」
「俺はバスケ出来ればそれで良いや。」
「こればっかだよ。」
「アメリカ行くとか。」
宗の言葉に、ふと、ある日の記憶が蘇る。
雑誌に載っていた、山王工業の沢北くんとかいう選手の渡米に関する記事。
中学の時に勝てなかった奴、沢北だったかぁ。北沢だと思ってた、あはは。
そう言って笑っていた。
でも、記事を見た瞬間の彰の表情は忘れない。
「考えてねーよ。」
彰はそう言ってコーヒーに口を付けた。
ねえ、本当に?
そう聞けたら良かったけど、念を押すみたいで嫌だった。
彰が行きたいなら行って欲しいと思ったから。
可能性を、目一杯使って欲しいと思ったから。