*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「スニーカーが見たいんだよね。」
佐和がそう言ったから、ショッピングモールに行くことになった。
「彰、彰!」
「ん?」
出掛けに、玄関で佐和屈むように手招きされたのでそのようにすると、首にマフラーが巻かれる。
「去年もらったの返すみたいで悪いんだけど。」
首元が寒々しそうだったから気になってた、と微笑む佐和が可愛かったのと、その顔があまりに近かったので目を閉じる。
「嬉しい、可愛い、キスして。」
「なにそのコンボ。」
ちょん、と唇が当たった。
言ってみるもんだな。
すっかりクリスマス仕様のショッピングモールには家族連れやカップルでごった返していた。
「あ、ちょっと待って、ここ寄っていい?」
「もちろん。あ、じゃあそこで待ってて、すぐ戻るから。」
わかったー、と返ってきたので早足で売り場に行く。目的を果たして戻ると佐和はまだ商品を眺めていた。
「何かいいのあった?」
「あ、もう終わった?うーん、まあ、色々ねー。」
そう言ってお店を出ようとする。
「いいの?」
「いいよ、見てるだけで楽しかったから。」
確かに目移りするよね。色々種類もあるし。
誕生日は、あれかな。
「彰はいいのあった?」
「ん?ああ、うん。要る物は買えたよ。」
「そっか、良かった。」
そう言って靴のテナントを探す。人が多くて敵わないな、自分も人混み構成員なんだけど。
「あったあった。」
そう言って佐和が指をさす。
「彰ってサイズあるの?」
「こういうとこで買う時は取り寄せかなぁ。」
佐和は並んでいるスニーカーを眺め、合わせながら、時折唸る。
「どういうの探してるの?」
「ガチで走れるやつ一足と、スカートに合わせられるの一足。」
ガチで走れるやつ…。
「ガチで走れるやつは専門店で見ようよ。なぁ、あっちの感じのは履かないの?」
足の甲がスパーンと空いた、ヒールの高い、アレ。俺からしたらみんなハイヒール。
でも姉ちゃん曰く色々名前があるんだよな。パンプスとか…メリージェーン?女優みたいだな。
「長らく履いてない…かな。」
その表情は曇りに曇ってる。
やっぱり気になるのかなぁ。
「身長?」
「!」
「あはは、正解だ。でもそれなら、心配いらなくない?」
俺、多分抜かれないよ。
そりゃ、いつぞや流行った15センチとか20センチの厚底履かれたら抜かれちまうけど。
でも。
「俺は、履きたい靴履いて、生き生きと歩いている佐和の隣を歩きたいな。」
抜かれようがどうしようが好きなの履いて欲しい。
そう言っても、佐和は尚も浮かない顔をしていて、なんだか気の毒になってくる。困らせたい訳じゃなかったんだけどな。
ごめん。
「須藤さん…?」
「あ、や…。」
あの人、プライド高そうだもんなぁ。
「俺より背の高い女とは歩きたくないとか言われた?」
佐和は、小さく頷いた。
自嘲気味に笑って呟く。
「冗談ってわかってたんだけど…。」
「冗談じゃ済まねぇよ、そんなの。」
しまった。
「彰?」
あー、また佐和の過去に嫉妬した。やっちまった。みっともねえ。
佐和は不安そうに見上げてくる。
あ、もしかして。
「違う違う、須藤さんそういう冗談が…嫌だなって意味。俺と須藤さんを比べないでとかそういうことじゃないから。」
そう言うと、佐和は安心したのか、ありがとう、と微笑んだ。
「ね、履いてみようよ。嫌?」
「嫌じゃないけど、今日普通の靴下だから、」
「大丈夫、あるから。」
ストッキングを渡すと
「…なんで持ってんの。」
とめちゃめちゃ嫌そうな顔された。
「さっき買ってきたの。」
「用意周到すぎて怖い…。」
「姉ちゃんの教育の賜物と言ってくれないか。」
「な、これとかどう?」
サイズはこれで合ってるかな、と彰が掲げる。
「わ、なんか品がいいね。似合わないよこんな…。」
「大丈夫だって、履いて履いて。」
そう言って床に置き、どうぞ、と自身の肩をトントンと叩いて示す。
「なんか恥ずかしい。」
「そう?」
その肩に手を置いて、靴を履く。
この季節にはややそぐわないようなオープントゥだが、少しフォーマルな場に履いていけそうな品の良いタイプ。
久しぶりのヒールの感じに少し戸惑う。
彰が私の手を取って立ち上がると、目線が少し高くなったのを感じる。
「お、少し近くなった。」
「そうだね、新鮮。」
彰は鏡の方を指差して、どう?と聞いてくる。
「うん、たまにはいいかも!」
「脚のラインもすごくいい。」
「彰が言うとなんだかなぁ。」
「あはは。…あれ、佐和って脹脛のバランス違う?」
わ、バレた。
「うん。左で蹴り出すから、左ばっか発達してる。」
「発達って。」
彰は堪えるように笑う。
これは剣道部鉄板のネタなので全く傷付かない。
「だから制服以外で短いスカートはかないの?」
結局、私服用のスニーカーを購入してお店を後にする。コンバースのハイカットがしっくりきたから。
「それは脹脛のせいじゃないよ。単純に似合わないから。」
「制服は結構短いくせに。」
「そんなに短くないだろ。」
「えー。」
なんなんだ。はいて欲しいのかはいて欲しくないのか。いーけど。はかないし。
「俺の前ならいいけど、他のやつの前はやだ。」
はいはい、それね。
「そろそろ帰る?時間的にも。」
「そーだな。」
「今度は彰の買い物も行こうよ。なんだか付き合ってもらっちゃった。」
「気にしなくていいよ、俺も楽しかった。」
「あ、じゃあスポーツ用品店行こうな。ガチで走れるやつ。」
「そうだな。ガチで走れるやつ。」
なぜだかわからないけど、それがツボって、帰り道ずっと笑ってた。
メリークリスマス。