*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「佐和って、他に怖いものある?」
教室に戻る道すがら、彰が唐突にそんなことを尋ねてくる。その聞き方どうなんだ、そんなもの、いくらでもあるよ。戸田先生は般若と呼ばれるだけあって怖いし、怒ったヒロくんは地獄の番人も震え上がる。
そんなことを言うと、そうじゃなくて、と笑った。
「ほら、暗闇と狭いところはダメだろ。」
そう言われて、去年のことを思い出す。
うわあ、恥ずかしい!
彰も同じことを考えていたのか、たまたま他のクラスのやっていたお化け屋敷を横目で見ていた。
「…雷。」
「え?」
「1人きりで雷の音を聞くのは、心細くなる。」
こいつ、ぼうっとしているようで意外と覚えてる。
「そっか、酷い雷雨の日だったんだっけ。」
そうだよ。
でもやっぱり恐ろしいのは生身の人間だよね、と言ったら彰は神妙な顔をした。
ここ、笑うとこなんだけどな。
誰もが振り返る。
主に、上級生の男子だ。わかるわかる。
可愛いだろ、俺の彼女。
いや、美人、かな。
「佐和ー!」
あれは…
「須藤先輩。」
佐和が微笑んだ。
ダメダメダメ!それは!
「うわ、なんだよ今の、超いいじゃん!」
俺もそう思います。不意打ち、ダメ絶対。
須藤さんが人懐こい笑顔で近付いてくると、慣れた手つきで佐和の髪に触れようとする。
「やめてよ、友達がセットしてくれたんですから。」
笑いながらその手を払う。
「それに、私には彰が居るし。須藤先輩もいい加減彼女に振られんぞ。」
その言葉に須藤さんが苦笑する。
「冗談だろ。」
「たとえ克ちゃんが冗談でも、彰が嫌な思いするなら私は断固拒否。」
俺の腕に掴まり、笑いながらもやや強い調子で言う佐和に須藤さんが、ふ、と笑う。
「相変わらず良い女だな。」
「はいはい、残念でした。」
おどけた様子で言う佐和に、須藤さんがは溜息をつく。
「俺は最初から気付いてたのにな。」
「…そうですね。」
「なんだ、知ってんのか。」
思わず俺は口を開いてしまった。それに対して須藤さんは少し驚いた様子だった。
「ははっ、ま、精々仲良くな〜。俺も彼女とラブラブのラブしてきまーす。」
そう言って俺の肩を軽く叩くと去って行った。佐和は俺の腕から手を離すと、浴衣のあわせを軽く握って息を吐いた。
「…手。」
「え?」
聞き返してきたのも構わず、俺は佐和の手を取って、指を絡める。
須藤さんと並ぶ佐和を見て少し焦ったのかもしれない。
あまりに、似合っていたから。
学年問わず女子生徒が振り返る。
そりゃそうだ。
浴衣姿の彰は見事に仕上がってる。
制服でも練習着でもユニフォームでも格好良いと思うけど、浴衣の非日常感は格が違う。なんなんだこいつのこの無駄な……色気。
繋いだ手の指先からじわじわと熱くなる。
今更だけど、すごく照れる。
彰のことを好きだと、自覚したときみたいだ。
「佐和!」
部活の先輩たちから声を掛けられた。
先輩たちが彰と私を交互に見て、ゲラゲラと笑う。
「全然わんぱく兄弟じゃないじゃん!!超カップル!!」
「高辻〜!もう仙道でいいよあんた!」
「仙道くんちゃんともらってやってよ、こんなに乙女になっちゃうなんて思わなかったー!」
「言葉遣いも変わったよね〜少年みたいだったのにー!」
「恋するとこんなに変わる?仙道よくやった、褒める!!」
「いい加減にして下さいよ先輩!恥ずかしいって!」
剣道部は声がでかい、というかよく通る。
そのせいで周りの生徒がこちらをすごく見てくる。もう、ほんと、恥ずかしい!
「お?」
「失礼します!クラスの方行かないと!」
彰を引っ張って足早に教室に向かう。彰は少し驚いた声を出したが、ついてきてくれる。
先輩たちは、後で行くね〜と手を振っていた。
「佐和は愛されてるなぁ。」
「それは感じるけど、恥ずかしいよ。」
「ね、本当に仙道になってくれない?」
「……え?」
「俺、割と本気。」
理解する前に教室に着いてしまい、クラスメイトから声を掛けられたので彰の言葉には返事を出来ないまま、持ち場につくことになった。
ねえ、でもそれは、子供の口約束…なんじゃないの?
私は、きっとこの先こんなに好きになれる人には出会えないと思うから、そうなりたいと思うよ。
心から。