*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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話は7月半ばに遡る。
ホームルームでは、体育祭の出場種目について、負傷の佐和を配慮して変更をするという話になった。
「わんぱく弟が腕を振れないので種目の交代をせにゃあかんのだが……。」
担任が頭をかきながら選手一覧といくつか資料を見比べる。
「おい日下部、お前種目まるっと代われ。」
「はい?」
美代は眉間にしわを寄せて聞き返す。
明らかに抗議の色を出している。
担任は全く意に介さず、
「お前、部活なんもやってない割にはタイムいいんだよ、なんかやってるだろ。」
体育の担当教諭でもあるので基本の記録は手元に持っていた。
「中学の貯金ですよ。」
(ほんっとこういう時はこの担任頭キレるわね…)
美代は限りなく不服に近い「わかりました。」で返した。
「じゃー高辻は借り物競走と…二人三脚大丈夫か?腕振るなよ?」
「振るのも組むのもちょっと怖いんですけど…でもあんまり出られないのはクソつまんねーので出ます。」
佐和は笑いながら答える。
「あ、じゃー俺が相方やりますよ、いざとなったら抱えますし。」
仙道が口を開く。担任は「そりゃいい。」と名簿を書き換える。
「待て待て待て、美代と組むはずだった相手にちゃんと聞けよ。」
「あ、私なら大丈夫だから〜。佐和支えられる自信ないし!仙道くんよろしくね!」
少し離れた席の女子が笑いながら返す。
仙道は、任されたー、と笑った。
「てゆーか男子とか女子とか分かれてないんすか、二人三脚って。」
「野郎同士がダメとしか書いてねーよ。」
担任は言いながら名簿を書き終え、はい完了、と締めた。
「美代、はやーい!」
「去年とは逆ね、悪い気しないわ。」
当日、なんだかんだ言いながらも100m走と長距離走をそつなくこなす美代に佐和は感嘆の声を上げた。美代も満更ではない様子で微笑んだ。
「佐和がリレーに出てなくて本当に良かったわよ。」
「今年は陸上部が結構いるからね、出る幕なし。」
そう言って笑うと、今年も相変わらず長距離走の先頭集団を走る同じクラスのバスケ部男子たちを応援した。
「佐和、どっち側がいい?」
「左かな。外れた方で組むのは怖い。…彰、背伸びた?」
仙道の肩に手を回した佐和が首を傾げる。
「そうかぁ?」
そう言って仙道が佐和の肩に手を回そうとして、止める。
「肩は触られるの、怖い?」
「んー…大丈夫だとは思うけど。」
「じゃ、俺はこっち。」
一度肩の装具を軽く撫でてから躊躇いなく腰に手を回す。
「ちょ、くすぐったいよ!」
「間違えて腕振らないように俺の手でも握ってな。」
そのやりとりを清々しいまでに堂々としていたので、他の生徒たちもいちいち騒ぎ立てたりはしなかった。始業式の時点で周知された2人の関係に今更誰も気に留めない。
「…あれ?」
「なに?」
「佐和から金木犀の香りがする。」
「あー…。」
佐和は言いづらそうに口ごもり
「洋ちゃん先生が京都で練り香水くれたんだけど、」
照れ臭そうに首筋を指して、極めて小さな声で
「少しは女子らしいことしたいと思って。」
と言った。
「俺をどうしたいの……。」
仙道は頭を抱えた。
「おつかれさん。気が合うとかそういうレベルじゃないだろ。」
越野は笑いながら2人に声を掛ける。
「彰が速いんだよ、転ぶかと思った。」
「え、そう?佐和楽勝そうに見えたけど。」
「はいはい、ナーイスアシスト〜。」
佐和がわざとらしく拍手すると、
「お、馬鹿にしてんな?」
と仙道が佐和の腰に手を回して引き寄せ、首筋にキスをする。
「バカ、やめろって!!」
そのやり取りに美代が盛大に溜息をつく。
「勝手にやってなさいよ。」