*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「……俺は、これ以上はお勧めしないな。」
私にも分かる。
だって、すごく、熱い。
じりじり、痛い。
ずっしり、重い。
そこまで暑くないはずなのに、汗が止まらない。
間違いなくこれは赤信号だ。
「やってやれないことはない。佐和ちゃん、自分で決めて。悔いを残さないように。」
分かってる。やってやれないことはない。
やりたい。
勝ちたい。
ぎゅっと目を閉じる。
ーじゃ、一緒に全国な。
そうだ、約束した。大切な人と。
「……戸田先生。」
顔を上げると、珍しく焦りを見せる鬼軍曹。
「私、棄権します。」
先生は、一度息を吸って、吐いた。
「……分かった。」
勝ちたい、でもそれは、来年でいい。
来年、また来る。
今度は万全の状態で。
「勝負有り。」
主審が旗をあげて宣告する。
コートでは、相手が一人で礼式を進める。
「……ありがとうございました。」
私は顧問とコートの外で礼をした。
必ず戻って来ると、固く誓うように。
『そっか、お疲れ。3位かぁ…おめでとう。よく頑張ったな。』
「ん、ありがとう。」
佐和は閉会式の後、部員とは別に先に帰宅することとなった。
新幹線のチケットを椙山が手配している間に仙道に電話をした。
『いま駅?』
「うん、京都駅。騒がしい?」
『いろんな音がする。』
「ごめん。声、聞こえる?」
『勿論。佐和の声は特別分かる。』
「あはは、ありがと。」
椙山が人混みをかき分けるように戻って来るのが見えた。
「そろそろ切るね。京都は暑いけど、いいとこだよ。またゆっくり来たいなぁ。」
『一緒に行こうよ。』
「…そうだね。じゃ、またね。」
『うん、気を付けてね。』
椙山は、邪魔した?と笑う。佐和は首を横に振り、ありがとうございます、と切符を受け取った。
「じゃあ千尋、明日は朝一番で病院に連れてきて。」
「わかった。」
「あと、今夜はこういう感じで処置してあげて。わかんないことあったら連絡してくれればいいから。」
椙山が千尋にメモを渡しながらレクチャーをする。佐和はぼんやりとそのやりとりを見ていた。
(あっという間に終わった…。)
(去年もこんな感じだったっけ。)
「じゃあ、また明日ね佐和ちゃん。今夜はゆっくり休んで。」
椙山の声に佐和は我に返る。
「あっ、はい、ありがとうございました。」
おやすみなさい、と言うと、椙山も、おやすみ、と告げて帰って行った。
「……じゃ、お盆休み入っちゃうけど、おかしいなと思ったら連絡してね。」
翌日、病院で検査をした後、軽めのリハビリを終える。
「次はお盆明けにまたトレーニング再開ね。剣道は少しお休み。」
「はい。」
「順調だから安心して!」
「はーい。」
明るく笑って、病院を後にする。
メールが入っているのに気づき、確認すると仙道からであった。
「明日から実家帰るんだ。」
「うん。姉ちゃんの結婚式もあるからね。」
「私は課題やるかな。」
「……やべ。」
「だよなぁ。やる暇なくない?」
「ないない。」
「後は、美代たちと文化祭の準備を少し進める感じかな。」
仙道が病院近くまで迎えに来て、家に招かれた。ゆったりと談笑してたが、ふと仙道が佐和の手を握る。
「どした?」
「お祝いしようよ。全国3位。」
「気持ちだけでいいよ、ありがと。」
「俺がしたいんだよ。なにがいい?」
そんなことを言われてもなぁ、と佐和が笑う。
「…じゃあ、褒めて。」
「え?」
「よく棄権した、って、褒めて。」
私の決断を、英断だったと褒めて欲しい。
そう笑う佐和に、仙道は微笑んだ。
「佐和がそう望むなら。」
そう言って両手を広げる。
「おいで。」
「……なんか、久し振りで恥ずかしい。」
佐和は躊躇いながらその腕に包まれる。
「そうだね。…痛いとか、無理してるとかはない?」
「平気。」
(ただ抱き合うだけなのに、心臓がうるさい。)
「本当は、やりたかったよな。」
「うん。」
「でも、踏みとどまったんだ。」
「うん。」
「よく、棄権を選択したね。えらいよ。」
「…うん。」
「約束したもん、来年一緒に全国いくって。」
「……そうだな。約束だもんな。ありがとう。」
「佐和、こっち向いて。」
佐和が顔を上げると仙道が口付ける。
優しく、でも、深く、執拗に。
「ん……っ」
「大丈夫?」
「だい、じょぶ…。」
や、でも、タンマ、と佐和は手で制する。
「タンマ無し。」
「俺へのご褒美でもあるから。」
(よく待ったね、って褒めてよ。)
(え、ちょっと、まさか、)
(肩痛いとか変とかあったら言ってね?すぐやめるから。)
(ちょ、待っ)
(もう待たない。どれだけ待ったと思ってるの。)