*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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夏休みに入って間もなく、剣道部は合宿に入った。
1週間程度だが、長野に遠征に行く。涼しいといいなぁ、と佐和は期待していたが、この日本列島、どこもかしこも暑くてかなわない。
(ようやく終わった…帰れる…。)
最終日、バスが学校に着くと皆それぞれ荷物を運ぶ。
防具一式に加えて着替えなど諸々の荷物もあるのでこれはこれでちょっとしたトレーニングなのでは、と溜息をつく。
武道場では、顧問から連絡事項を聞き、各々荷物を片付ける。すると、備品が何か足りないとざわついていた。
「バスの中確認してきます。」
「悪いな高辻、頼むわ!」
佐和は急ぎ校門のバスに乗り込み、棚の上を確認する。
(あった…。)
審判旗と襷、ストップウォッチのセットがポツンと忘れ去られていた。それを取り、運転手に声を掛け、念のため下部のトランクも確認させてもらう。
「すみません、もうこれで忘れ物なさそうです。ありがとうございます!」
運転手は笑って「元気だね、こちらこそありがと〜」と手を振ってくれる。バスに向かっていた顧問とすれ違ったので報告をし、武道場へ走る。ちらりと振り返ると、顧問が運転手と楽しそうに談笑しているのが見えた。
(あの人も笑うんだ……。)
般若やら鬼軍曹だのと色々なあだ名を持つ顧問だが、リラックスしたその表情を見て佐和はくすりと笑った。
「佐和〜戸締り任せて大丈夫?」
同級生の部員が佐和に声をかける。佐和は竹刀の弦を締めながら顔を上げた。
「うん大丈夫、やっとく。それより体調は?送ろうか。」
「平気だよ、ありがと。」
「そ?よかった。じゃ、ゆっくり休んでね。」
合宿中に体調を崩していた同級生にバイバイ、と手を振り、見送った。
外で何やら声が聞こえた気がしたが、あまり気にせず佐和は余った弦をハサミで切る。
(あと少し…。)
「イーケメン、おつかれ。」
その声に佐和は驚き、顔を上げた。
「仙道!?おつかれ、練習終わったの?」
「うん。剣道部のバスが見えたから高辻いるかな〜と思って見に来ちゃった。」
入っていい?と言われたので、佐和は、良いよ、と告げる。仙道は靴を脱いで上がり、佐和の隣に腰を下ろした。
「女の子口説いてたの?」
「バカじゃん、何言ってんの。」
女の子には優しくしなきゃいけないんだよ、と佐和が笑っていると、仙道はその手元を指差す。
「それ何してんの?」
「ああ、竹刀のメンテ。合宿中に何本かダメにしたから直してんの。」
中結いを結び始める佐和の手元に、仙道は、ほう、と感嘆の声を上げる。
「器用だなー。どうなってんの。」
「引っ掛けて通してるだけだよ。」
最後はニッパーで締めると、余った皮をハサミで切る。
「ん、持ってみる?女子用だから軽いかな。」
竹刀を仙道に渡すと、慣れない得物に戸惑い、掲げて見たり軽く手首で振ってみたりしている。
「軽くねーよ。長いし。」
「慣れないだけだろ、バスケのボールのが重いしデカいよ。」
「そうかぁ?」
そーだよ、と佐和は左の手のひらを仙道の方に向けて顎で示す。仙道はそれに気付いて竹刀を置くと、右の手のひらを合わせる。
「手、マジでデカいな!ダンクするんだもんな、ボール掴めなきゃできないか。」
そう言って佐和が手を引こうとすると、仙道がその手を握って口を開く。
「佐和ちゃんの手はマメだらけ。頑張ってる証拠だね。」
仙道は親指で胼胝になっている部分をなぞる。
その感触に佐和は堪えきれず笑い出す。
「…んっ、はは、やめろよバカ、くすぐったい!」
笑いながら手を引っ込め、散らばっているゴミを拾い上げると、隅のゴミ箱に捨てに行く。そして開けていた窓を閉め始める。仙道も立ち上がり、同様に開いている窓を閉める。
「サンキュ、助かるよ。」
「お互い様。」
「ははっ、そっか。ありがと。」
(さっきのはやべーだろ。)
背を向けていた仙道は口元に手をあてて、深呼吸する。
ついさっき佐和の手に触れていた右手を見下ろし、握り締めた。
戸締りをして武道場を後にする。
並んで歩いていると、仙道がふと佐和を見下ろして何かに気づく。
「高辻、背、伸びてねぇ?」
「うそ。」
「なんか目線違う気がする。」
「…マジか。」
(確かに仙道の肩の位置が前と違う気がすんな…)
「な、保健室開いてるっぽいし寄ってこうぜ。」
「え?やだよ!」
いーからいーから、と仙道は佐和の手を取り歩いていく。佐和は諦めてそのままついていった。
(176…や、7か?)
(伸びてる…180いったらどうしよう。)