*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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海が見たい。
佐和がそう言うから、埠頭に来た。
まだ明るい時間だったから、遠くまで見渡せる。
この間は夜だったから分からなかったと笑い、
すごく綺麗だね、と佐和が振り返る。
佐和の方が綺麗だよ、って言ったら、
ありきたりだね、とまた笑った。
君を抱き締めたい。
君に触れたい。
君が、欲しい。
どうかなってしまいそうだ。
「彰?」
「んー?」
「疲れた?」
「んー。」
仙道のジャージを腰に巻いた佐和が笑う。
「上の空。」
「んなことねーよ。」
「空元気?」
「全然。」
そのやりとりに、佐和が声を立てて笑った。
「なんか、他人みたい。」
「え、ごめん。」
「怒ってない、ちょっとおかしくて。」
あはは、と笑い続ける佐和に仙道は近付き、上を向かせてキスをした。
「びっくりした。」
「ごめ」
「謝るの禁止。」
手で制する佐和に仙道はきょとんとした。
「今、私しかいないよ。」
ー今、俺しかいないよ。
自分の言葉を思い出し、仙道は手で顔を覆って、笑った。
「別に落ち込んじゃいないよ。」
「別に落ち込んでるなんて言ってないけど。」
お、と手を顔から退けて仙道は佐和の方を見る。
「でも、いつもと違うから。」
その言葉に、困ったように笑った。
「佐和には敵わないなぁ。」
片手を首の後ろにやり、息を吐く。
「皆が泣いてんのに、俺全然泣けないんだよね。」
「悔しくないわけじゃないし、悲しいとか寂しいとかそう言う感情がないわけでもない。」
「なんなんだろうな。」
佐和は首を傾げる。
「昔、彼女に怒られた?」
「んー……まあ、そんなこともあったかな。」
「ばか。」
「え?」
佐和は半目で仙道を睨む。
「涙で感情が推し量れるなら何も苦労しねーよ。」
自身の手を握りしめ、仙道の胸をトントンと叩く。
「彰は、先輩とインハイ行けないのもバスケ出来なくなるのも寂しいって思ってるし、試合に負けて悔しいって思ってるし、」
「牧さんといい勝負できた事は嬉しいし、流川くんと対戦できた事は楽しかった。」
「そうでしょ。」
その言葉に、仙道は鼻白む。
その表情に、佐和は笑う。
「涙なんて関係ないんだよ。」
「あーあ、ほんっと、佐和には敵わないなぁ。」
長く息を吐き出し、笑う。
「そうだよなぁ。そうなんだよ。」
それに、と続ける。
「佐和が俺の代わりに泣いたり怒ったりしてくれるから俺は泣くことも怒ることもしなくて済んじゃう。」
そう言って、佐和の頬に手をやる。
「サンキュ。」
流れる涙を拭う。
「彰が泣かないから私も泣かないって決めてたのにな。」
「俺の代わりだって。」
「そっか。」
「……あーあ、悔しいなぁ。」
「うん。」
「全国も逃したし。」
「…うん。」
「魚住さんや、池上さんは引退しちゃうんだろうなぁ。」
「そうかもね。」
「寂しくなるなぁ。」
「怒鳴る人が減るね。」
「それはいいよ。」
「…はいはい。」
佐和は涙を流しながら笑う。
仙道は涙を拭うように口付ける。
「来年は、全国行くよ。」
「うん。」
「佐和も来年は万全だよな。」
「当たり前だろ。」
「じゃ、一緒に全国な。」
「もちろんだよ。約束。」
小指を立てる佐和に、仙道は微笑んで小指を絡める。
「最強だなぁ、俺たち。」
「わんぱく兄弟から、インハイ兄弟だね。」
佐和はからからと笑って指を解く。仙道は佐和の顎を持ち上げ、上を向かせる。
「兄弟じゃないよ。」
そう言って少し乱暴に唇を押し付ける。
呼吸まで奪う様に、深く。
「……恋人、だろ。」
そう言って、もう一度口付けた。
「彰。」
佐和を家まで送ると千尋が出て来る。
「お疲れさん。」
「ありがとうございます。」
「今日は帰るか?」
「はい。」
「じゃ、これ。」
紙袋を差し出す。
「ちゃんと飯食ってから寝ろよ。」
「……ありがとうございます。」
いい香りの立ち上る紙袋を受け取る。
千尋は微笑み、仙道の肩をぽんぽんと叩く。
「また来いよ。」
何も聞かない千尋に、仙道は微笑んで「はい」と返事をして帰って行った。
「大丈夫、来年は必ず行けるよ。」
「そうだな、あいつなら大丈夫だ。」