*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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全てが終わった、という喪失感より
いつも通り試合が終わった、という感覚だった。
少しの感傷が、ないこともないが。
「越野。」
表彰式の後、更衣室では皆が淡々と片付けをしていた。そんな中で、不意に仙道が越野に話し掛ける。
俺は顔を上げ、何をしているのか見守る。
魚住も同じようだ。
「なんだよ、せん」
本当に何が起こったのか分からなかった。
本当に何を考えているのか分からなかった。
魚住もぽかんとしている。
俺も同じだ、同じ気持ちだ。
目の前では。
「うーーーーーん……。」
仙道が越野を抱き締めていた。
「失礼します。魚住、スコアブック持ってき…」
マネージャーが入ってくる。
その光景に、後ろ手に扉を閉める。
外から1年のマネージャーが何事かと慌てている。
仙道は少し体を離し、越野の顔を見つめる。
それも息がかかる至近距離だ。
おい、何する気だ。
ついにおかしくなったのか。
「待て、仙道、俺には心に決めた奴が、」
なにこれ尊い、とマネージャーが呟いている。
「やっぱ違うんだよなぁ、佐和とは。」
「もう少し背が高くて、もう少し柔らかいっていうか…やっぱ女の子なんだなぁ。」
「離しやがれ!!!!!!!!」
越野が腹に一発見舞う。
仙道は笑いながらそれをかわす。
「なん…なん…なんなんだお前は!!欲求不満か!!」
「そーなんだよ、佐和怪我してっからよ、スキンシップが足りなくて。」
「だからって俺で試すなよ!!!」
「体格的に越野が近いんだよ。ちょっと小せえけど。」
「俺の!!心に!!スパイクで!!踏み込んでくんなよ!!!テメーは母ちゃんの腹ん中から人生やり直せ!!!!」
「はっは、厳しいなぁ。」
いや、普通に怒るだろう。
というか、何を言いだすんだコイツは。
どんだけオープンなんだ。
高辻が気の毒過ぎる。
しかし、更衣室が笑いに包まれた。先程までお通夜の様な雰囲気だったのが一変した。こういう所まで仙道はムードメーカーなんだなと思い知らされる。
高辻、本当、すまん。
越野も。
「ところでよ、」
仙道が笑いを収め、越野を真っ直ぐに見る。
「心に決めた奴、って、誰?」
その目は試合中のそれと同じだ。
しかし、声色には揶揄の音が混ざっていた。
「本当に大丈夫?」
「うん。彰が待っててって連絡して来たから待ってる。美代は宗一郎と帰りなよ。ここで解散なんでしょ。」
1階のロビーのベンチに座って2人が話していると、海南の一団がやって来る。バラバラと、知っているような知らないような顔触れが各々のペースで帰途についている。
「美代、佐和!」
声のする方に目を遣ると、神が笑顔で歩いて来るのが見えた。
「お疲れ様。」
美代が神を見上げて言う。
「ありがと。」
「ベスト5に入っちゃうなんてね。」
「ありがたいね。」
佐和は微笑み合う2人を見て安堵していた。
「神さーん!」
清田が遠くから手を振りながら走って来る。
「ノブ、帰ったんじゃなかったの?」
「牧さん見ませんでしたか?」
「いや、見てないけど…。」
「呼んだか。」
奥から歩いて来る牧に、清田の表情が明るくなる。
「どこ行ってたんすかぁ。」
「監督と少し話しをな。」
牧が佐和と美代に気が付き、こちらは、と神に尋ねる。
「中学の同級生です。陵南生で、仙道とは同じクラス…なんだっけ。」
「そうだよ。」
美代が返事をする。それを聞いた後、神は佐和の方を見た。
「そういえば佐和、怪我はどうなの。インターハイは?」
「出場権はあるけど…。間に合うかは分かんない。」
牧が、ほう、と驚く。
「そうなのか。競技は何を?」
「剣道です。」
「…驚いたな。大事にするんだぞ。頑張れ。」
牧が佐和を見て静かに言う。
佐和はその声と表情に思わずどきりとする。
「あ、ありがとうございます。」
佐和が、MVPおめでとうございます、と言うと、牧は微笑んで、ありがとう、と返す。
(お、大人の魅力…。)
「佐和、顔緩い。三井さんが好みだったんじゃないの。」
美代のキラーパスに佐和が慌てる。
「美代は流川くんだろ。」
「湘北スタメンなら、でしょ。」
「そのまま返すよ。」
そんな応酬をしていると、奥から慌ただしい足音が聞こえて来る。
「あっ!高辻、助けてくれ!!!」
越野が駆け込んできた。
佐和を盾にするように隠れると、
「仙道が、仙道のやつが!」
「彰がどうしたんだよ。」
「こっしの〜」
ニコニコと笑いながらわざとらしく走って来る仙道の姿があった。
佐和と越野の姿を認めた途端に眉間に皺を寄せ、近付いて来たと思ったら佐和の右腕を引き、一回転させると後ろからお腹の辺りに手を回す形で腕に収める。
「佐和に気安く触ってんじゃねーよ。」
「うるせえな、俺のこと代わりにしやがったくせに!」
「ちょっと待て、周りを見ろ。」
佐和が少し低い声で言う。
呆気にとられる海南の面々と美代に気が付き、げっ、と零す越野に対し、意に介さずニコニコする仙道。
「お疲れ様です、牧さん、神、ノブナガくん。」
「お、おう…お疲れ。」
我に返った牧がそれに返し、息を吐いて笑う。
「元気そうだな。」
「…まあ、いつまでも落ち込んでいられないですから、ね。」
「無駄なことなんていっこもない。…負けも、必要なことなんですよ。」
その言葉に、佐和は仙道を見上げる。
牧は越野と仙道を見た後、佐和の方に視線やる。
「彼女のお陰…か。」
くつくつと笑うと、
「またな。」
と言って、未だ呆然とする清田を引っ張って行く。
「俺たちも行こうか。」
「うん。またね、佐和。越野に仙道も。」
神と美代もそう言って去っていった。
「ところで。」
佐和は2人を交互に見る。
「私の代わり、って、なに?」