*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「さ、桜木くんって、めちゃ跳ぶな…。」
初っ端から観客席が騒ついた。
「普通あんな風に届くの…?」
インターフェアをコールされたものの、その身体能力に誰もが驚いていた。
「す、すごい子だね。」
「彰が楽しそうに話してたから、本物なんだとは思うよ。」
しばらくして、後ろで藤真が小さく反応した。
「うまい!」
「吉兆!」
三井の機転に、福田がファールを取られる。
「爽やかイケメン、頭も切れるわね。」
「冷静だよね、美代は。」
すると、会場がまた沸き立つ。
「越野うまーい!」
「でも、湘北の7番くん足速いわ。」
越野のシュートを、追い付いてきた宮城がブロックする。
「すごいとぶなあいつ!」
藤真の感嘆の声に佐和も口を開く。
「宮城くん、上背はそんなにないけどものともしないじゃん。」
「わ、大きい人倒れた!」
「す、すげえ音した…バスケって激しいな…。」
佐和と美代が息を飲むと、後ろから藤真が口を挟む。
「すげえだろー。俺もバスケやってんだぞー。」
「藤真さんはああいう体張るポジションじゃなさそうっすね。」
「まーな。仙道も試合の後は結構痣作ってるだろ。」
「さあ…?」
「走れぇっ!!」
その声に佐和はコートに目を移す。
「仙道が声を張るなんてリレーの時くらいしか知らないわよ。」
「人が変わるねぇ。」
「ほんっと、バスケ以外はポンコツなんだから。」
「美代さん、悪口だよ。」
その後も陵南リードで試合は進む。
一際重い音が響く。
「なんてパワーだ…魚住……。」
会場が静まり返る。ややあって騒つき始める。
「さ、桜木くんが…。」
「今の大丈夫なの…?」
立ち上がらない桜木を見て2人は顔を見合わせる。その後一悶着あったが、試合は続行する。
「バスケ…奥が深い…。」
そして、前半が終わる。
「流血までするの?」
「さすがに稀なケースだろ…。」
「妙だな。」
「え?」
ハーフタイムに入ると藤真が一言こぼす。
その言葉に佐和が振り返る。
「ああ、流川だよ。あっちの1年。」
「妙、というのは?」
「点取り野郎の筈なのにシュートに行く回数少なくないか。」
「そーなんすか。」
「仙道との1on1こそ燃えそうなものなのにな。」
花形が引き継ぐように口を開く。
「仙道も1年の時は流川みたいなオフェンスの鬼だったよな。」
「去年は湘北戦で47点取ってたろ。」
(あの話、湘北戦だったのか。)
佐和は空になったコートを見下ろした。
後半が始まると、藤真と花形の言っていた事を実感した。前半とは打って変わってガンガンゴールを狙う流川に、陵南サイドが慌ただしくなる。
驚愕する魚住に、小さく驚く仙道、盛り上がる観客。
佐和と美代も驚いて黙ってしまう。
「パスもらってからシュートまでがメチャクチャはやい!」
「あんだけはやく動いてよくシュート決められるな!」
「あれを決めるのは見た目以上に難しいはずだぜ!」
翔陽の面々も同様に驚くばかり。
「今のがマグレじゃないとしたら、いくら仙道といえど、そう止められるもんじゃないぞ……。」
藤真の言葉に佐和は我に返る。
田岡が怒鳴る声に美代もはっとする。
「でも…仙道なんか楽しそうじゃない?」
「ムラがあるなぁ!もう!」
残り時間が5分になる頃、仙道の空気が変わる。
「わ、2人抜いた…!」
「挑発してるわよ。」
「なんか…館内の声援もすごいな。」
「あら、何か仕切ってるみたい。」
「ほんっと普段とは別人。」
観客席のバスケ部の応援部隊が盛り上がる。
「陵南の空気が変わった…。」
藤真が呟いた。
佐和はそれに、ひとつ頷いた。
残り3分を切ったところで仙道にボールが渡った。
館内が一際盛り上がった時だった。
仙道の放ったボールが放物線を描く。
ノータッチでリングに吸い込まれた。
館内が仙道コール一色に染まる。
佐和は手が小刻みに震えるのに気づいた。
(分かってる、大丈夫。彰は彰だ。)
ボールが仙道に渡る度に大きな声援が巻き起こる。
身体がぶつかり合ってもシュートを決め、床に倒れてガッツポーズをしているその姿に、佐和は目を見開く。
笛の音に我に返るが、震えは止まらない。
(ダメだ、遠い。)
「佐和、しっかりして。」
「!」
美代の声に顔を上げる。
いつの間にかコートから目を離していた。
「大丈夫?」
残り2分、気が付けばジャンプボールの後、池上がボールを確保していた。
「よォし、この1本はとるぞっ!」
「!」
大丈夫、と美代に言いかけて、やめた。
聞き覚えのある声にコートを見る。
鬼気迫る翔北のディフェンスに攻めあぐねる陵南。
しかし、仙道のパスが魚住に通った。
「佐和?」
「あ、だ、大丈夫。」
美代の方を見て笑いかけると、ボールを叩く音が聞こえた。桜木のブロックだ。
「今のブロックは大きい。」
佐和は藤真を振り返る。
「もちろん仙道のパスを読んでたなど100%ないな。次のプレイを予測したとも考えられん。」
「頭で考えてやったことじゃない。」
ーすげーのが、出てきた。
練習試合の日、仙道と話したことを思い出す。
すごく嬉しそうに、楽しそうに話していた。
(もう、そんなの言い当てなくていいのに。)
「俺らは帰るよ、またな。」
「はい、ありがとうございました。」
「えっと、美代ちゃん?だっけ、佐和よろしく。気を付けて帰れよ。」
「あはは…はい。」
藤真はもう一度佐和を見下ろした。
そして、何も言わずに去っていった。
「すごいね。宗一郎も仙道もベスト5入ってるよ。」
表彰式の間、美代は佐和の背中に手を当てて時折さする
「…人が捌けるまではここにいよっか。」
「…うん。」
足に力が入らなくて立ち上がれなかった。
終わって安心したのと、
負けて悲しかったのと、
多分両方だったから。