*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「土曜は12時から?」
「来れそう?」
「部活終わってからになるから、間に合うかな…。でも、行くよ。」
「リハビリもあるんだろ、無理すんなよ。」
「大丈夫だよ、大したことないって。」
嘘つけよ。
本当はしんどいくせに。
その後に部活行って、試合見に来る?
……どんだけ俺、愛されてんだよ。
ちくしょう、絶対勝ってやる。
牧さんにだって、負けねえ。
(今日のトレーニングは一段とキツかった……。)
ヨロヨロと階段を上る。
リハビリ後は部活に行った。
疲労困憊で、その体に鞭打って。
(何やってんだ私。)
(そんなに彰のこと…)
歓声が上がる。
会場のボルテージは最高潮に達していた。
(満員かよー…座りてえ。)
しかし、その気持ちは眼下の試合に打ち消される。
「彰……!」
どこからか聞こえた、仙道冷静さを失ったかっ!の声に、思わず声が漏れた。
手すりに飛びつく。その拍子に肩に掛けていたウインドブレーカーが落ちる。
「落ちましたよ。」
その声に振り返る。
「な、泣いてんのか?」
「いえ違います!ちょっと緊張してて…あの、ありがとうございます。」
右手を出したが、
「その腕じゃ、自分で掛けられないだろ。」
と肩に掛けられる。
首に掛けていたタオルに手が伸びてくると、それで目元を拭われる。
「わ、すみません…。」
「仙道の彼女かなんかか?…魚住居ないから状況としては最悪だが、あいつならなんかやるかもな。」
佐和と同じくらいの背丈で、とても端正な顔立ちをした男の人だった。翔陽の制服を着ている。
「バスケ、詳しい方ですか?…あ、私、陵南高校剣道部の高辻といいます。」
自己紹介する佐和に、試合を見ながら、ふっ、と笑う。
「今時珍しくばか丁寧なやつだな。俺は翔陽バスケ部の藤真だよ。解説してやる。」
佐和はなんとなく気恥ずかしくなる。
「お、お願いします…。」
(ん?あれ?藤真……藤真さん!?)
「藤真さんって、ああ。」
「なに、仙道が俺のこと褒めてた?」
「絶賛してました。」
(去年だけど。)
藤真はくつくつと笑うと、
「あいつも可愛いとこあんじゃん。」
と満足顔だった。
その後の試合展開から、延長にもつれ込む所までしっかり解説付きで観戦する。
「やれやれ、恐ろしい男だよ、仙道は。」
ため息混じりに藤真が呟く。
いつの間にか集まった翔陽バスケ部に、佐和は圧倒される。
「藤真、この子は?」
「あ?仙道の彼女。えっと、高辻…高辻何?」
「へ?佐和…ですけど…。」
「じゃあ佐和な。」
(見た目に反してグイグイ来るなぁ。)
好奇の目で見られるのに些か居心地の悪さを感じていると、藤真が「おめーら見過ぎ」と手で払う仕草をする。
その後、延長が始まるとまた藤真の解説を聞きながら観戦する。
結果としては海南の勝利に終わった。
(それでも、彰のプレーは確かにすごくて、)
(藤真さんも溜息をつく程良かったってのは分かった。)
「帰んの?」
試合が終わり人が疎らになる頃、帰ろうとする佐和を藤真が呼び止める。
「帰りますよ。」
「なんで。会ってかねえの?彼女なんだろ?」
「彼女だからですよ。」
へえ、と藤真が驚く。
「私が慰める、とか。」
「何すかそれ。…自分だったら、気持ちの整理する時間欲しいですもん。明日も試合なら、尚更。」
慰めとか声掛けとかそんなん受け止められる余裕ないです、と佐和が笑って答えると、藤真はうんうんと頷く。
「分かる。でも、仙道ってそういうタイプか?」
「さあ。私は仙道じゃないんでわかんないです。」
「確かにな。」
くつくつと笑いながら藤真が隣に並ぶ。
「下まで送る。お前へろへろじゃん。」
「え。」
「隠してるつもりだったのか?顔色わりーぞ。」
帰るぞー、と藤真が他の部員に声を掛け、階段の方に向かった。
「あれ、仙道じゃね?」
佐和が藤真が指差す方に目を遣ると、よく見知ったツンツン頭が見えた。
「探してんじゃね?」
「でも…。」
「おーい!仙道!」
「呼ぶんかい!」
仙道に声を掛け、そちらに向かう藤真に思わず佐和が突っ込むと取り巻きが噴き出す。
「藤真さん、と、佐和?」
ややぼんやりした表情で仙道が2人に話し掛ける。
「彼女が帰ろうとしてたから連れて来たぞ。」
「ちょっと藤真さん、私言ったじゃないですか、今は…」
「佐和。」
仙道が佐和の肩を掴んで自分の方に向かせる。
「……お疲れ。」
佐和は絞り出すように言う。
仙道は佐和の顔色を見て眉根を寄せた。
「無理しなくていいって言ったろ。」
佐和が目を見開く。
仙道はすぐにハッとし、違う、と言う。
「悪い、そうじゃない、そういうことが言いたいんじゃ…。」
ぱしん、と佐和が右手で仙道の頬を叩く。
その手は頬に添えたまま口を開く。
「謝らなくていいから。彰は悪くない、他人を気に掛けてる場合じゃないんだ。」
「無駄な事なんて、いっこもない。全部必要な事だよ。」
そこまで言って、手を装具の方にやる。
そこから油性ペンを出すと、「手、出せ」と言って顎で示す。
言われるまま仙道が左手を差し出すと、そこに佐和がペンを走らせる。
仙道はそれを見て、噴き出す。
「じゃ、帰るから。」
そう言って佐和は背を向ける。
翔陽の面々に一礼すると、颯爽と歩いていった。
「超いい女じゃん。」
藤真が、仙道の方を見上げる。
仙道は、でしょ、と言って笑う。
「お前の貴重な表情も見れたから、俺は大収穫かな。じゃーな、明日頑張れよ。」
「藤真さんはうちと湘北、どっちが勝つと思います?」
背を向けた藤真が一度振り返り、不敵に笑う。
「どっちでもいい。どっちも冬に倒すから。」
その言葉に仙道は苦笑すると、手の平に描かれたニコニコと笑うマークにもう一度笑い掛けた。
「サンキュ。」