*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
死屍累々。
この時ほどその言葉を実感したことはない。
「あんたたち、日に日にやつれてない?」
昼休み、自分以外の人間を見て溜息をつく。
佐和は慣れないリハビリとトレーニング、それに加えて部活では積極的に指導にあたっているらしく頭が休まらないと呻く。
バスケ部は、来たる予選の為に練習のハードさが増しており居眠りしていても魘されていた。
昼食の後は体力回復のために昼寝をしているけど、急に顔を上げる奴がいて、その度に私は驚かされる。今顔を上げたのは、越野。
「休まってんの…?」
「体は…。」
顔色が優れないけど、そう言ってもう一度机に突っ伏した。
宗一郎もこんな感じなのかな。
想像出来ないけど。
間も無く全員目を覚まし、授業の準備を始める。
「取り敢えず、明日の試合で勝たないとな。」
「バスケ部は公休なんだね。」
越野と美代が話しているのを見ながら、仙道は佐和の方に目を遣る。思い付いたようにノートを開き、何かを書いている。腕の装具のせいで書き辛そうにしているが、字は綺麗だ。
「それ、何のノート?」
「閻魔帳。」
佐和は、くる、と仙道の方に振り返り、にんまりと笑う。
「うそうそ、今朝の朝練の時に気づいたこと書いてんの。急に思い出して。」
たくさんのメモが書かれている。
「それって、」
「見るのも勉強だから。教えるのもね。今まで気がつかなかったことが沢山あった。今なら全員倒せる気がする。」
「悪そうな顔してるなぁ。」
見せて、と仙道が覗き込む。
「わかんねーだろ。」
「佐和の字が綺麗なことは分かった。」
「そりゃどーも。」
気の無い返事をした佐和は、書き終えたノートを閉じて片付けた。
翌日、試合を終えて軽くミーティングをした後、仙道は佐和の通う病院に来ていた。
(今日リハビリって言ってたな。)
院内は明るく、そんなに広くはないがスッキリとしていて、病院に相応しい清潔感はもちろんのこと、親しみやすい優しい雰囲気が出ていた。
(リハビリ室は…と。)
案内表示に従って進むと、ガラス張りの部屋に何人か、それぞれの症状に見合ったリハビリをしており、それぞれ担当の療法士が付いていた。
(あれか。……!)
肩の出たランニング姿で、椙山と会話をしながらトレーニングをしている佐和が見えた。固定の装具ではなく、リハビリ用の補助装具を身に付けている。汗だくなのはそうだが、時折苦悶の表情を浮かべ、涙を滲ませている場面も。
自分の想像を遥かに超えていたその光景に、仙道は言葉を失いただ立ち尽くしていた。
「おはよ!勝ったんだよな、おめでとう!」
いつも通りの佐和に仙道は鼻白むも、「ありがと。」と短く返す。
「朝練きつい?」
「いやぁ、どうかな。」
あはは、と笑う仙道を訝しむも、ふうん、と言って佐和は美代と談笑し始めた。
(あんな姿みたら、きついなんて言えねーよ。)
佐和に手を伸ばそうとしたが、カリ、と自分の机の角に爪を立てるのにとどめる。
(君に触れたい。)
(代わってやりたい。)
(そんな事を言ったら、怒られるんだろうな。)
「ねえ、佐和。」
「ん?なに?」
「決勝リーグは観に来てくれるんだよな?」
「もちろん行くよ。」
振り返った拍子に揺れた左腕のブレスレットのアクアマリンが、窓から差す日差しに反射して煌めく。
「…ん。」
仙道が満足そうに笑うのを見て、佐和は首を傾げた。
(構って欲しいの?)
(んーそうかも。)
(そっかそっか。)
(…え?それだけ?)