*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「インターハイ、間に合わせたくはないか。」
ヒロ兄の言葉に、ただただ目を見開くしかなかった。
「俺の同期で、スポーツドクターの元で一緒にセラピストやってる理学療法士がいる。トレーナーとかなんかよくわからんが色んな資格持ってて、スポーツやってる連中を専門にしてる。」
「ヒロくん…?」
「ダメ元で聞いてみたら、検査次第ではあるが力になってくれるそうだ。どうする?」
そんなの答えは決まってる。
私は頷いた。
ヒロくんは、微笑んでいた。
「初めまして。椙山洋一です。スギちゃんでもよーちゃんでも好きに呼んでね〜。」
(見た目も中身もファンキーだ。)
オレンジに近い茶髪短髪の男性と対面で座る。
「佐和ちゃんの検査結果見て先生と相談したんだけど、経過がとっても良いから試合には出られるよ。」
「本当ですか?」
「うん、でも、一応話をしよう。」
佐和が首を傾げると、椙山は明るい口調で続ける。
「再発する可能性が80%なんだよね。でも、20%はしないってことなんだよ。佐和ちゃんはインハイ準優勝なんていう、確率で言ったらめちゃめちゃ低いことをやってのけてるわけ。だから20%なんて楽勝じゃん?」
「はあ…。」
(めちゃポジティブじゃね?)
「んで、リハビリして、8月頭のインハイに間に合わせるわけなんだけど、」
そこで、真顔になる。
「試合には出られる。」
「でも、それまで剣道は出来ない。」
「それでも、出る?」
佐和は一瞬血の気が引くのを感じた。
(練習なしで……ってこと?)
「正直、おすすめはしないかな。本来なら競技復帰に半年くらい掛けたいところ。」
「でもさ。」
「出て後悔するのと、出ないで後悔するの、どっちがいい?」
椙山が、微笑む。
その表情にはどこか寂しさを滲ませている。
「私は……出ないで後悔はしたくないです。」
佐和は、真っ直ぐ椙山を見た。
「っはは、だよねえ!じゃなきゃ千尋がわざわざ連絡なんてしてこないか。ごめんごめん、意地の悪いことを言った。」
高らかに笑う椙山に佐和はきょとんとする。ひとしきり笑うと、笑顔で真っ直ぐ佐和を見る。
「稽古、なんて剣道をやるだけが能じゃない。そりゃ、やらなきゃ勘は鈍るけどね。でも、見ること…観察眼を養い、相手を解剖すること。自分を顧みること。やれることなんてたくさんある。」
「今自分に足りないものは何かな?どうして前回は優勝出来なかった?その後何か変えた?」
ずい、と身を乗り出すこと椙山に、佐和は気圧され怯む。
「不撓不屈、陵南高校剣道部の掲げるこの言葉、佐和ちゃんが体現していこう。」
佐和は椙山の言葉が持つ不思議な力を感じ、知らず首を縦に振った。
その様子に椙山は満足そうに頷く。
「ああ、体ももちろん鍛えるよ。俺がしっかりついて指導します。隣の総合体育館のトレーニングルーム借りられるから。」
その後、細かなスケジュールや確認事項、親の承諾書などを、同行していた千尋に手渡す。
「千尋からご両親にきちんと説明して。費用のことや、家が離れてるから送迎の負担もかかる。それから、もし出来れば顧問の先生とも話がしたいな。」
「ああ、俺から確認しよう。」
「ん。昼休みなら出られるし、土曜なら午後伺うから。」
「分かった。」
「お兄ちゃん、ありがと…。」
「まだ早いんじゃないか?」
涙目の妹の頭を、千尋は少し乱暴にかき混ぜた。
「あいつは、出て後悔した方だよ。」
帰りの車内で千尋が呟く。
「あいつも怪我してて。怪我を押して無理に大会出たんだ。…腰のヘルニア。」
佐和は黙って千尋の横顔を見た。
「結局、手術が必要になって。リハビリしたけど、最後は間に合わなかった。インターハイは愚か、予選さえ。」
千尋が、心なしか苦い表情を見せる。
「でも、だからこそ、今のあいつがいる。無駄なことは一つもないと、伝えていきたいんだとさ。」
「無駄なことは一つもない…。」
佐和は自分に言い聞かせるように呟いた。
「そっか…良かったな!」
「まだ、これからなんだけどね。」
病院が終わった後、部活に少し顔を出した佐和は仙道を待って一緒に帰ることにした。
「気持ちの良い人だな。」
「そうなんだよ、めちゃポジティブ。」
しばらくは面倒見てもらえるらしいということも付け加える。
「年内はついてもらうことになるかな。」
「そっか。」
「一応言っておくけど、心配するようなことは一切ないからね?」
「あはは、分かってるよ。」
そういえば、と佐和が口を開く。
「県予選は始まってんだよね?」
「ああ、でもうちはシードだからまだ先。」
「そっか。決勝リーグは土日だよね?観に行くよ。」
「ん、楽しみにしてる。」
そうだ、と仙道は鞄から小さな箱を取り出す。
「誕生日プレゼント、かなり遅れたけど。渡しそびれてた。」
え、と佐和は驚く。
「来年また、って。」
「うん、でも、俺が渡したかったから。」
開けて、と促されるまま佐和は箱を開ける。
「ブレスレット?」
中には細身のチェーンのブレスレットが入っていた。
「3月の誕生石の言葉、知ってる?」
仙道が佐和の腕につけてやりながら話す。
「ううん、知らない…。」
「勇敢。」
小さなアクアマリンが光る。
「他にも、聡明とか沈着ってあるんだけど、俺が送りたいのは、勇敢。」
「勇敢…。」
佐和は着けられた右腕を掲げ見る。
「バスケ部の横断幕みたことある?」
「勇猛果敢、だね。」
「なんだかお揃いみたいじゃない?」
「!」
少し照れて笑う仙道の言葉に、佐和も微笑む。
「守られてるみたい。」
「俺も。」
2人で顔を見合わせて笑う。
「ありがと。」
「どーいたしまして。」
(神と会った時、これを買いに行ってたんだよ。)
(だからか、なんかどもってたよな。)
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怪我のことは専門家じゃないので
本当のところはよくわかりません。
薄眼で見てください…。