*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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4月になり、佐和達も2年となった。
「俺は猛獣使いじゃねえんだけどなぁ。」
去年と変わらない担任が手元の書類を見ながらぼやく。
「おい、わんぱく兄弟。今年は大人しくしてろよ。」
「いつも大人しいですよ。」
佐和が片手を上げて笑う。
「邪魔してないですよね?」
仙道もそれに倣って片手を上げて笑った。
「おい、保護者、お前らしっかり手綱掴んどけよ。」
越野と美代が溜息をつくと、教室の中は笑いに包まれた。
始業式が終わると1年生向けに部活動紹介が行われる。
各部活動がステージで演奏をしたり、実演をしたり。
『次は男子バスケットボール部です。』
生徒会の進行で、ステージ上には3年生が現れる。マネージャーの女子がマイクを取り、魚住と池上を紹介し、部活の概要を説明、そして
『後ろをご覧下さい。我が部が誇るオフェンスオバケによる華麗なるシュート!』
とアリーナの後ろを示す。
(なんつう紹介だよ。)
自分もスタンバイ中の佐和は、体育館の入り口から覗き込む。
ユニフォーム姿の仙道がドリブルをしながら現れる。黄色い悲鳴のような声が上がった。
福田にパスをすると、ドリブルをしてレイアップを決める。その後も互いにパスを回しながら様々なシュートを披露していくが、やがて仙道がダンクを決める。
そしてそのボールを拾うと振り向きざまに放り投げる。
福田が駆けて行き、アリウープを決めた。
館内は一瞬静まり返るが、その後、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
アンビリーバブルやぁー!という声が聞こえ、佐和は噴き出す。
(アンビリーバブルて…。)
『仙道は昨年の県予選で新人王にも選ばれた実力者。こんな彼らと楽しく厳しくバスケをやりましょう!マネージャーも募集してるよ〜!』
マネージャーが明るくまとめたが、佐和は目を白黒させた。
「新人王……って?」
「ふー。」
ジャージを羽織って、仙道はクラスの列の最後尾に並ぶ。
「息ぴったりだったな、おつかれ。」
越野がタオルを手渡す。サンキュ、と仙道が受け取ると他の部活の紹介を眺める。
「こういうのはもう勘弁だぜ。」
やがて剣道部が紹介される。
女子の主将がマイクを持ち、色々と説明をしていく。
『実際の稽古は見学に来てもらえれば早いので割愛ねー。今日は、老若男女問わず楽しめる理由を、剣道形で紹介します。』
「形なんてあるんだな。」
「知らなかった。」
越野と仙道がステージを見たまま話す。
『男子主将の須藤と、2年の高辻です。2人は昨年のインターハイ出場経験があり、高辻に至っては準優勝という成績を残しています。』
2人が木刀を持ってステージに現れる。
「やっぱ高辻は姿勢がいいよなー。」
「綺麗だよなぁ。」
「惚気んなよ。」
やがて、形を始める。
須藤が太刀なのに対し、佐和は小太刀である。基本はゆったりとした動きだが、時折佐和が小太刀で鮮やかに捌く。相手の腕を掴み、小太刀を突きつける場面も。
全て終わり、2人が礼をしたところで拍手が起こる。
『この通り、得物の他にも性別や年齢に違いがあっても、あしらい方ひとつで相手を制することが出来ます。須藤主将、何かありますか。』
須藤がマイクを受け取り、口を開く。
『今回は俺が高辻にやられましたが、普段は俺が佐和をヤッてます。』
その言葉に笑いが起こる。
女子の主将が少し睨みながらマイクを取り上げる。
『下品な須藤は馬に蹴られて彼女に振られてください。佐和には新人王の彼氏が居るので誤解のないようにお願いします。』
『先輩やめてくださいよ!』
慌てた佐和が先輩に縋り付く。よく通る声はマイクにしっかり乗る。
『いいじゃない別に。』
『良くない!大体、新人王なんて聞いてねえ!』
そのやりとりに生徒達は腹を抱えて笑う。
一部女子で悲鳴をあげる者や泣き崩れる者も出ていたとか出ていないとか。
「ごめーん!言ってなかったー!」
仙道が笑いながら、ふざけて答える。
『お前は黙ってろ!』
『こんな須藤主将や高辻先輩から愛ある指導を受けたいみなさん、剣道部に来てね〜。』
佐和は小太刀を持ったまま腕を組み、やや不機嫌そうに、女子の主将に促されてステージを降りていった。
「ははは、おもしれー。」
「何笑ってんだよ、変な汗かいた。つーか新人王なんて聞いてねえ。」
佐和は道着のままクラスの列の最後尾に並び、隣の仙道を見上げて睨む。
「ごめんごめん。」
仙道は羽織っていたジャージを佐和の肩に掛ける。
「いーよ、寒くないし、持ってる。」
「いーの、俺がしたいだけ。」
「……。」
ユニフォームの仙道を見上げる佐和。
「なんか、男子の気持ち分かるかも。」
「なに?」
「バスケって露出多くない?肌を見られるの、ちょっとやだな。」
「!」
仙道はその言葉に崩れ落ち、顔を手で覆う。
「な、なんだよ!」
「男前すぎて…。」
佐和は頬を染めて鼻を鳴らすと、持っていた自分のウインドブレーカーを仙道に掛ける。
「ありがと…ははっ」
もう片方の手で腹をおさえ、まだ笑う仙道を、いい加減にしろ、と佐和は軽く蹴る。
やがて仙道は立ち上がる。
「なー、こいつらなんなの。」
越野が隣の女子バスケットボール部員に話し掛ける。
彼女もまた笑いを堪えていた。
(後ろから見たら俺らどう見える?)
(サイズが変。)
(そういうことじゃないんだけどなぁ。)