*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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夜、なんとなく目が冴えて仕切りの戸を開けて和室から出る。
キッチンに明かりがついていて、そちらに目を遣ると、佐和が起きていた。
手元を見ると、飲み物の入ったコップと
湿布。
「何してんの。」
「彰か、おどかすなよ。」
佐和は笑った。仙道はそちらへ行くと、それどうするの、と湿布を指差す。
「鎖骨のとこ、なんか疼くっていうか、熱いっていうか…」
「痛いんだ。」
気まずそうに頷く佐和に、貼りにくいだろ、と湿布を取り上げる。
「Tシャツあげて。」
「いいよ、自分でやるから。」
「早く、誰か来るかも知れないだろ。…今度は何もしないから。」
佐和はコップを置くと控えめにTシャツを捲る。仙道はTシャツの下を見ないように赤黒くなっている鎖骨の痣に湿布を貼ってやり、すぐに手を引っ込める。佐和もTシャツを下ろす。
「……ありがと。」
「全然。警戒する気持ち分かるよ、ごめんな。」
首の後ろを掻きながら仙道が項垂れる。
「俺、堪え性ないなぁ…。」
「私も学習しないなぁ…。」
顔を見合わせて、笑う。
「試合のあった日って体火照るし、喉が乾くんだよ。」
「わかる。俺も夜起きる時ある。」
そう言って佐和がコップを示す。
「レモンの蜂蜜漬けのソーダ割り、飲んでみる?」
「お、頂戴。」
一口飲むと、結構いける、と仙道が笑う。
「でしょ、おすすめ。」
その後、2人は各々の寝床に戻り、ぐっすり眠った。
「おーい、朝ごはんできたよー。」
仕切りの戸をノックし、開けて佐和が男子たちに声を掛ける。
「はよっす、高辻。」
「おはよ、起きてねーの彰だけ?」
「おう、さっきから起こしてんだけどこいつ起きねーんだよ。」
目を閉じたままの仙道を佐和が一瞥する。
「……タヌキ。」
「ちぇ、バレてた。」
え、と越野と植草が驚く。福田は成り行きを見守っていた。
「早くしろよ。」
「俺さぁ、昨日と今朝だけで高辻の見方変わったわ。」
「分かる。結構ハイスペック。」
「…佐和は元々世話好きだ。」
越野と植草、それに福田が口を開く。
午前中だけ練習にも関わらず、軽食と、レモンの蜂蜜漬けまで待たされていた。
「学校生活だけじゃ絶対わかんねーよな。」
「仙道は引きがいいなぁ。」
越野と植草の言葉に、福田が横目で仙道を見る。
「俺の観察眼も大したもんだろ。」
おどけてみせる仙道に、福田は鼻を鳴らした。
「よっしゃ〜いい感じに進んだぁ〜!」
「佐和にしては冴えてたよね。」
「やっぱり?これが続くといいんだけどなぁ。」
ダイニングで伸びをする2人。
佐和はすぐに立ち上がり、何飲む?と尋ねる。
「じゃー、カフェオレ。」
「おっけー私も〜。」
マシンの唸り声が鳴り響く。
佐和は冷蔵庫を開け、プリンを取り出す。
「由佳ちゃんから。」
「わー!嬉しい!」
やがて出来上がったカフェオレとともに、プリンを頬張る。
「帰り送るね。」
「いいのに。」
「歩きながら話そうよ。この先忙しくなるからあんま時間取れなくなるし。」
「彼氏みたい。」
「だったら良かったよね〜私と美代、合ってるもん。」
明るく笑い、片付けをしてから家を出た。
「ね、美代。この1年近く、何もなかったの?」
佐和は自転車を引き、美代の荷物を引き受けて歩く。
「連絡は少し取ってたよ。誕生日とか、試合の時とか。」
「断絶ではないんだね。」
「そうだね。それがまた残酷よ。」
そう言って笑う美代は寂しげだった。
「ウィンターカップの時の様子を仙道から聞いた時、ほっとしたの。」
「…ん。」
「別れる時の宗一郎、なんか切羽詰まってるっていうか、悩んでるみたいだったから。」
「そう、だったんだ。」
歩くスピードを緩めながら、ぽつりぽつりと紡ぐ。
「ちゃんと話し合って別れたの?」
「んー…どちらかというと、宗一郎に、これ以上は踏み込まないでって空気出された感じあるなぁ。」
「一方的な感じだね。」
「いっそ突っぱねてくれたら良かったのに。」
美代が、立ち止まる。
「まだ、好きなんだ…。」
両手を覆い、涙を零す。
佐和は羽織っていたパーカーを美代の頭から被せて肩を抱き寄せる。
「ほんと、佐和が彼氏だったら良かったのに。」
「バカだな、そしたら美代が苦労するだけだよ。」
美代の家の前まで来て、立ち止まる。
「私、もう一度、ちゃんと話してみる。気持ちを伝えて、それでもダメなら、諦める。」
「ん、わかった。」
「その時はまた泊めてね。」
「うん。美味しいもの食べてたくさん笑おう。」
「うん。ありがと。じゃ、また連絡する。」
「私もする。またね。」
手を振り合って、佐和は自転車にまたがった。
「あれ、彰。」
「お、わ、佐和、こんなところでどうしたんだよ。」
「そりゃこっちの台詞だよ。私は美代を送ってきたとこ…あれ、宗。」
「佐和、久し振り。」
駅前で思わぬ出会いがあった。
「電車降りたら神と会ったんだよ。」
「見たことある頭だなと思ったら仙道だった。」
(なんだこのタイミング…怖い。)
佐和は変な汗をかいたが、深呼吸する。
すると、神が佐和の自転車のカゴを指差す。
「それ……美代の。」
「え、あれ、ホントだ!」
美代の鞄に付いていたキーホルダーが引っかかっていた。
「気が付かなかった!どうしよ、これ大事にしてたやつじゃん、チェーン切れちゃってるし…!返してこなくちゃ、」
「俺が行くよ、家そっちだし。」
ひょい、と取り上げて、じゃあね、と片手を上げて行ってしまった。
「……スマート。」
「てゆーか、平気なの?昨日の様子だと美代ちゃん引きずってない?」
「んー…まあ、そうだけど、大丈夫だよ。」
「……なんかあったんだ?」
「秘密〜。」
それより仙道こそ何してたんだ?と佐和が尋ねると、
「秘密〜。」
と返ってくるだけだった。
(というわけで、俺が送ります。後ろに乗ってください。)
(あ、ごめん、部則で2ケツ禁止。)
(…意外と真面目だよな。)
(てゆーか法律が許さないだろ、春翔に確保されっぞ。)
(警察官なんだ。)