*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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試合が始まる前にもう1人男性がやって来る。
さっきのお兄さんと話して、またこっちを見て笑ってる。
「あれっ、なんか……。」
美代ちゃんもそう思う?俺もなんかそんな気がするんだよね。
すっげえ似てる。正直髪型同じだったらわからん。
「双子??」
佐和って、双子家系に生まれたんだなぁ。
試合が始まる。
アップの時点でその激しさに美代たちは驚いていたのだが、試合となるとさらに苛烈さを増した。
「そりゃ…佐和の痣が絶えないわけだわ。」
美代がそんな言葉を発すると越野も頷く。
やがて佐和に回ってくると見ている側の空気も変わる。
(よく見ると…たかが練習試合の割に、それっぽい人間が混ざってるよな…。)
記者風の人、大学の関係者のような人。
注目度の高い選手なのだと、実感させられる。
(全国…か。)
研ぎ澄まされた空気の中、試合が始まる。
「う…わ。」
「なんか、あっという間に終わったんだけど…。」
越野と植草が驚愕する。
(思ってた以上にすげえ。)
仙道は絶句していた。
自分の恋人の空気が一瞬で変わった。
冷徹なまでの、一撃。
佐和の打ち込む一本一本に無駄はなく、
素人目にもわかる、その格の違い。
(俺の、彼女なんだよなぁ。)
目の前のこの距離を、すごく遠く感じていた。
「佐和!」
佐和が秋也から指導を受けていると顧問に呼ばれる。
はい!と通る声で返事をして駆け寄ると、
「勉強させてもらってこい。」
そう言って男子のコートを指差す。
「……え。」
「向こうの2年が相手してくれるらしいから。」
「はい!」
先程一戦交えた相手に挨拶をすると、男子の方に駆けて行った。
男子の追加試合に、団体礼を終えた女子も見学に寄ってくる。
どよめく館内に、佐和はどこ吹く風。
一礼して、相手を見据える。
(予選で上位に食い込んでいた、な。)
蹲踞をして、始め、の声に立ち上がる。
「えっ、ちょっと、佐和男子とやるの!?」
美代が驚いて声を上げる。
越野が、静かにしろよ、と制する。
仙道は黙っていた。
やや膠着気味だったが、佐和が攻め込んで面を打つのと、相手が牽制の突きを打つのが重なる。
「……!」
相手の剣先が佐和の突き垂を外して左鎖骨を突く。その衝撃で佐和の打った面は空を切り、体が後ろに倒れる。
受け身を取り体を起こすと、竹刀で面を守りながら立ち上がり、すぐに構え直す。
仙道は佐和のその様子に、長めに息を吐き出す。
「いま佐和すっ転んだ…っていうか飛ばされた感じけど、大丈夫なの…?」
美代が震える声で越野の肩を叩く。
「すぐ立ち上がったけど、あれ普通なのか?」
「仙道、大丈夫?」
植草がそちらを見上げると、格好はそのままに、眉間に皺を寄せる仙道の姿があった。
その後も緩急のある攻め合いが続き、一本ずつ取ったところで時間となる。引き分けに終わったが、佐和は兄と顧問から厳しく指導を受けていた。
春翔はやや乱暴に突き垂を持ち上げて傷を確認すると面の上からぱしんと叩いて、その後ジェスチャーを交えながら何か言っている。
その後顧問も指導していて、最後は背中をぽんぽんと叩く。
やがて面を外した佐和は汗だくで、しかし、決して下を向かず、その凛とした表情に誰もが釘付けとなった。
「……佐和って、かっこいいって言うか、綺麗だね。」
美代がぽつりとこぼす。
「ギャップすげえ。仙道かよ。」
越野の言葉に植草も頷く。
仙道は佐和を映したまま
「…んなことねーよ。」
と言って、また口を閉ざした。
「美代ちゃん。久し振り。」
「わ、由佳さん!」
由佳が後ろから声を掛けてくる。
「大丈夫?元気?今日泊まるんだったよね、最後までみてく?荷物運んでおくよ。」
「ありがとうございます!」
「日下部、荷物多いなとは思ったけど、そういうことか。」
「そーそ、佐和、明日は部活ないらしいから課題やろうって話してて。」
何かお手伝いすることありますか、と尋ねると、由佳は、お願いしたいわぁ、と笑う。
「じゃあ、試合終わったら一緒に来てくれる?」
試合の後は合同の稽古会なのよ、と由佳さんが説明する。
「あ、だから試合の後の片付け終わったら帰っていいって言われたのか。」
越野は納得するとコートに目を遣る。
男子が団体礼を済ませているところだった。
「そろそろ片付けかな?」
植草が口を開くと越野も頷いた。
備品の片付け中、仙道はスプレーの音に気付き、モップの入っている倉庫を覗く。人目を避けるように、防具を外した佐和が鎖骨にコールドスプレーを当てていた。
「佐和。」
仙道の声に手を止めて振り返る。
「あ……彰。」
佐和は気まずそうに襟元を整える。
仙道は後ろ手に扉を閉め、つかつかと近付くと、今しがた冷やしていたところに口付ける。
「ちょっ……と、」
唇を離し、不味い、と呟く。
「なにすんだよ!」
「約束した。俺が上書きするって。」
「今じゃなくても…っ、ん、ダメだったら…!」
「……大きな声出すと誰か来ちゃうよ?」
もう一度同じところに舌を這わせると、わざと音を立てて軽く吸い上げる。
いつもと違う仙道の空気を感じ、佐和は顔を覗き込むようにして尋ねる。
「どうした、何があった?」
その声に、仙道は我に返る。
目の前には、心配そうに見上げる、少し熱を帯びた恋人がいた。
「……悪い。」
「ううん。試合結構激しかったし、心配してくれた…のかな?」
「!」
「あっはは、わかりやすい奴だな。大丈夫だって。」
いつものことだから、と佐和は仙道を抱きしめる。直ぐに離れると「臭いよなー、ごめん。」と笑う。
「……佐和が、少し遠く感じて。」
仙道の言葉に佐和は驚くが、直ぐに口を開く。
「私も、仙道の試合見た時そう思った。記者っぽい人とか大学関係者っぽい人とかいたし。ファンもごろごろ、コートにはまるで別人の彰。」
そう言って、笑った。
「そっか、一緒だ。」
仙道は安堵の息を吐き、佐和に口付けた。
「全部ひっくるめて、佐和なんだよな。」
「そーゆーこと。」
また後で、と言って、先に出て行く佐和の背中を見送って、少し間をおいてから仙道も皆と合流した。
(仙道!どこ行ってたんだよ。)
(なぁ越野、俺ってわかりやすい?)
(あぁ?だったら世話ねえよ。)
(…そっか。)
(んだよ機嫌いいな、きもちわり。)