*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「佐和!」
「高辻ーー!!」
「高辻さん。」
(今年はなんか……多いな。)
朝練が終わってから武道場を出て、昇降口、階段、廊下…教室に入るまでに何度呼び止められたかわからない。
「ありがとう。これ、私から。」
その度に手持ちのプチギフトが減っていく。同時に両手が塞がっていく。
高校初めてのバレンタインデーを迎えた。
「おー佐和モッテモテ。」
教室に入ると、すぐ後ろから声を掛けられる。
佐和は振り返るが、その姿にぎょっとして、少し引く。
「おはよ…うっわ、えげつな。」
「佐和が言う?」
セールに行った女子よろしく大量の紙袋を提げる仙道がにこにこと笑っている。
「お返しが大変だなぁ。」
「ちゃんとお返しするんだ?」
「するよ。」
席につきながらそんな話をしていると、美代が振り返り、おはよ、と言いながら仙道を軽く睨む。
「なんで彼女にそういう話平気でするかな。」
「手厳しい。」
そんな話をしている間にも教室に女子が入って来て仙道の所へ贈り物を持ってくる。
「わんぱく弟にもあるよ。はい、佐和!」
「私にも?悪いなぁ、ありがと。これ、私から。」
「かわいい!あはは、ありがとね!」
プチギフトを手に女子が出て行く。
美代がそれを見て感心している。
「用意周到じゃん。」
「由佳ちゃんからのご助言。」
「流石、わかってる。」
昼休みになり、仙道が「昼メシ買ってくる」と立ち上がろうとしたので佐和がそれを制する。
「いいから座って。」
「なになに。」
「彰にはこれ。」
お弁当サイズのバスケットを押し付ける。
「美代はこれね。いつもありがと。」
「佐和から?嬉しい!可愛いな〜。」
「越野と植草にはこっち。バスケ教えてくれてありがとな。」
「おお、マジ?サンキュ!」
「俺にもいいの?ありがと。」
それぞれに感嘆の声を上げるが、注目は仙道の手元にあった。
「あけていい?」
「うん、あけて。今開けないと困る。」
「へぇ?……お、すげ……。」
サンドイッチや卵焼き、小振りなフライドチキンやウインナーなど、男子高校生の喜びそうなラインナップのお弁当だった。
「甘いもの、沢山もらうんだろうなと思って。」
「ちゅーしていい?」
「駄目。」
美代はそのやりとりにも驚いたが、
「佐和って結構器用だよね…てか、こんなに色々作る暇あったんだ!?」
と目を丸くして佐和を見上げる。
「家近いし……そもそも本職がいるから。」
調理場借りたんだ、と佐和が笑う。
私たちもお弁当食べようよ、と言って自分のお弁当を広げると、仙道のそれと似通ったものが入っている。
「今日自分で作って来たの?」
と美代が尋ねると、佐和は苦笑いして頷く。
「お母さんと由佳さん忙しかったから。」
店のメインはパンだが、洋菓子も売り出しており、それがなかなか好評らしい。担当は佐和の母と由佳だという。
「先週から修羅場感すごかった。」
バレンタインだもんね、と美代は佐和のチョコを頬張った。
「んー美味しい!」
「仙道ー!」
女子が仙道を呼びながら教室に入ってくる。
「今日売店来ないんだもん、待ってたんだよ?なに、お弁当なの?」
はいこれ、とチョコと思しき箱を差し出す。
「うん、そー。愛妻弁当。」
4人が噴き出すのをよそに、うまいよ?と仙道が惚気る。女子は怪訝な顔をして、差し出していた箱を下にさげ、彼女でもできたの?と尋ねる。
「うん。だから本命は受け取らないよ。」
「ふうん…。じゃあ、たったいま義理になったから受け取って。」
「ん、そういうことなら。ありがと。」
(あれ…。)
佐和はどしんと何か重いものがお腹に乗っかってくるような気分になる。
(なんだこれ……前にもあった、この感じ。)
その後も、休み時間毎に入れ替わり立ち替わり女子が仙道の元に訪れる。もしくは呼び出されて席を外す。
(本当にモテるんだ、この男。)
「佐和、顔色が良くないよ。」
美代が佐和の顔を覗き込む。
「ちょっと寝不足かな。大丈夫…。」
(大丈夫じゃないやつね。)
自分よりいくらか大きい親友の頭を撫で、その隣の空席を睨んだ。
「わかってても、堪えるね。」
「!」
微睡んでいる親友の寝言のような一言は、きっと本音であり弱音なんだろう、と美代の溜息を深くさせた。
(仙道、あんた相当愛されてんじゃん。)
「あれ、佐和、寝てるの?」
美代は席に戻った仙道に向かって、ふん、と鼻を鳴らすと
「一発殴らせてほしい。佐和の代わりに。」
と真顔で言い放った。
仙道は、勘弁してください、と両手を上げた。
(ちなみに私から佐和にはこれをあげます。)
(わーい!!ラッピング可愛いな〜)
(俺には?)
(はぁ?あんたにあげる義理ないけど。)
(なんでそんな仙道に当たり厳しいの?)