*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「じゃ、迎えが来るまで休ませてもらって。お大事に。」
佐和はそう言って保健室を後にすると体育館に向かう。
(今日は一段と冷えてるもんな。あの子、大丈夫かな。)
外に出ると冷たい風が吹いてきて、ぶる、と身震いをする。佐和はウインドブレーカーを貸したままなことを思い出したが、まあいいや、と歩を進めた。
(ウインドブレーカーの有能振りといったら…。)
(あれ…?)
仙道は佐和のいた方を見上げたがその姿はなく、小さく首を傾げる。
それに気付いた越野が小声で言う。
「高辻、女の子抱えてどっか行ったみたいだ。」
「そうか…。」
ふう、と息を吐き、ユニフォームで汗を拭う。
「切れんなよ。」
「冗談だろ。」
もう一本、いこーか、と越野の背中をぽんと叩き、走っていった。
(パス寄越せ、ってか。)
佐和が体育館に戻ると、出て行く前より点差が開いており、館内の興奮も高まっていた。
間もなく第2ピリオドが終わるという頃、コートの仙道と目が合ったが、彼はやや怪訝な顔をした。佐和はそれには気付かず、口元を埋めていたマフラーを手で下ろし、ナイス!と声には出さず口だけで言ってニッと笑う。
それを見た仙道は少し驚くも、不敵に笑って人差し指を立て、走っていった。
ハーフタイムに入る。パイプ椅子に座っていた仙道はタオルを肩に掛けて水分を摂りながら少し考えたが、立ち上がる。
「すみません、すぐ戻ります。」
言うが早いか上着を引っ掴んで出ていった。
(あれ?あいつどこ行くんだ?)
仙道の姿を目で追っていたが、見失う。首を捻っていると、やがて肩に何か掛けられるのが分かった。
「え?」
佐和が振り返ると、息を弾ませた仙道が立っていた。
「それ、着て。理由は後で聞く。」
佐和は仙道の纏う空気に気圧され、ただ頷き、袖を通す。
仙道はタオルで汗を拭いながら「勝手に帰んなよ。」と言ってあっという間に去って行った。
一瞬の出来事に、佐和も、近くにいた人々も呆気にとられていた。
(彰の、匂い。)
佐和は、前にも似たようなことあったな、と思い返す。
(ダメだ…。)
体の奥が甘く痺れるような感覚。頬が紅潮するのを感じ、マフラーで隠す。
何より、仙道の纏う、普段とはまるで違う空気が怖くてどうも居心地が悪かった。
(あんな、強い調子の命令口調も初めてだ。)
第3ピリオドが始まる。
(彰はベンチだ。)
よく見ると、見覚えのあるタオル。
それを肩から掛けて、試合を目で追っている。
(上着、使うはずだっただろうに。)
館内の人がまばらになっていく。
佐和はしばらくぼんやりしていたが、1階に降り、体育館の前の階段に腰掛ける。
(…あ、擦っちゃう)
慌てて立ち上がり、ジャージの裾についた砂を払った。
「あの。」
女性の声に、佐和は振り返る。
自分よりうんと小柄なその女子は、他校の制服を着ていた。お友達も数人。
「仙道くんのお友達ですか?」
じっと佐和を見て、眉間にしわを寄せる。
(可愛いお顔が台無しだよ。)
そんなことを思いつつつ、どう答えれば円満なのか考えていると、女の子が上着を掴む。
「ちょっと、ここ、階段だからあぶねーよ。」
「なんなのよこれ。彼女みたいじゃない!」
「タンマ!」
流石にこんな所で口論していては自分の身が危ない、と佐和は掴まれた手をやんわり退ける。
「なんでそうつっかかるかな。」
階段から離れ、向き直るようにする。
「仙道くんが…男の子を好きだなんて…。」
希望はないのね、と明らかに気落ちしている女の子に慌てる。
「ちょっとちょっと、私、女なんだけど……。」
その言葉に顔を上げた女の子がめちゃくちゃに睨んで噛みつかんばかりの勢いで
「なお悪い!!!」
と言った。
(どうせいと!?)