*【深津】真夏の7Days
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一成くん、負けちゃったんだって。
お母さんの言葉に、胸がきゅうと締め付けられた。
頑張ってたのに。
それは、みんな同じなのだけど。
夏の雫
「菜月、なにしてるピョン。」
「ピョン…緊張感ないなぁ…。」
寮からの帰省のようで、大きな鞄を抱えてこちらへ向かって歩いてくる一成はいつも通り無表情で、私の姿を認めるとそう声を掛けてきた。
「うちの畑で採れた野菜届けに来たんだけど留守で。」
「ん、いつもありがとピョン。よろしく伝えてくれピョン。」
「ピョンピョンピョンピョン…なんなのもう!」
「はは。」
ふざけた語尾に発狂する私を尻目に、笑いながら門扉を開けて玄関の鍵を開けた。
「お土産あるから、お茶でもしてくピョン。もみじまんじゅうピョン。消費期限が近いピョン」
「食べるピョン…。だーもう!ピョンやめ!」
「はは。」
「笑うな!」
久し振りの深津家はなにも変わってなかった。小学生くらいまではお互いの家を行き来していたけれど中学に上がるのを境にぱったりと行くことはなくなった。
「紅葉饅頭はもなかの親戚らしいピョン。」
「えっ、うそ、そうなの!?」
「うそピョン。」
「もう!」
キッチンに並んで立って、私はお茶を淹れ、一成はお菓子の箱を開ける。
「…おつかれさま。」
「ん?」
「インターハイ。部活も。」
「まだ引退じゃないピョン。」
「でも、一段落。」
「…まあ、な。」
今年はキャプテンだからか、少し張り詰めていたような気がしていた。ううん、気のせいかな。だって、こんな感じだよ、ベシだのピョンだの変な語尾で飄々として。寮に入っているから普段の様子はよくわからないけれど、試合はいつも観に行っていたから、なんとなく変化を感じていた。
だから、やっぱり…気のせいではないんだ。
「…俺、キャプテンだったのにな。」
「…うん。」
「監督にも信用してもらってたのに。」
「うん。」
「情けない。」
「それはない。」
ぽつりぽつりとこぼれる弱音を、ぴしゃん、と私が一刀両断する。一成は目を瞬かせてこちらを見下ろしていた。
「一成に任せて良かったって、思ってる。絶対そう。部員も、そう。河田くんも松本くんも一之倉くんも野辺くんも沢北くんも。」
「…学校も違うのに、よく覚えてるな。」
「試合、観に行くたびに教えてくれたじゃん。」
「教えたか?」
確かに、私が勝手に覚えただけではある。でも、試合の後に何回か部員の人たちに会った時、一成は必ずみんなの名前を呼んでいた。共有させてくれてるんだと思って内心嬉しかった。
「… 菜月。」
「なに?」
「好きだ。」
「…え。」
突然の言葉に私は目を見開いた。一成は私を見つめたまま視線を外さない。それに負けて、私の方が俯いてしまった。
「きゅ、急にどうしたの」
「急でもなんでもない。インターハイが終わったら言おうと思ってた。」
肩に手が置かれたかと思ったら、体の向きを変えられる。顔を上げると視線がかち合った。
「菜月がいつも応援してくれて、嬉しかった。」
「何があっても菜月は傍にいてくれるって思ってたから打ち込めた。」
「これからもそうだと…いい。」
一成は微かに笑った。揶揄する時以外には見ることのない笑顔に、目が離せなかった。
「私も…それがいい。」
小さく開いた口からこぼれ落ちる言葉をきちんと拾い上げたように、私の言葉が終わると一成は目を細めた。紅葉饅頭を出そうとしていた左手は、シンクに置いていた私の右手に重なる。
「それなら、良かった。」
体を屈めて唇を重ねた。唇が離れると彼の右手が私の背に回り、抱き締められる。すっかり鍛え上げられたその体の熱がやや高いような気がしたのは、気のせいではないと思う。
(お茶が冷めちゃうよ。)
(このクソ暑い日になんで熱い緑茶なのか教えて欲しいピョン。)