*【深津】真夏の7Days
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雨が上がる。
虹がかかる。
俺たちの、私たちの、七色の未来。
ハッピーエンドから始めよう!
菜月はいつも通り午前の作業を終えて帰宅した。家族が帰ってくるのは今日の夕方頃だと聞いている。
やがて深津がやって来たが、いつもとは違う。荷物も多いし、制服を着ている。
「お昼食べたら行くんだっけ。」
「ピョン。」
今日から寮に戻って、土日で切り替えるらしい。以前のように、母親から持たされたという昼食一式に菜月は感嘆の声を上げて喜んだが、
「本当は菜月の作る料理が食べたかった。」
という深津のその言葉に二の句が告げなかった。
嬉しくて。
早めの昼食を済ませ、甲子園の中継を惰性で眺める。どちらも、一言も発しない。
「…こういう時、気の利いたことが言えない。」
「ん?なに?」
やがて、沈黙を破った深津が困ったように笑って菜月の顔を覗き込む。
「菜月の喜ぶ言葉がわからない。」
「菜月と一緒にいられない時間は、どうしようもなくもどかしい。」
「…それだけは、忘れないでくれ。平気なわけないんだ。」
深津一成という男は心の内を表に出さない。それは菜月も承知していた。それも魅力のひとつだと思っているし、へらへらしているよりもずっといいと思っていた。
しかし、それは時に不安にさせることもあった。寂しいと思うのは自分だけなのだろうかと。向こうは切ないとかそういう感情を持ち合わせていないのだろうか、などと。
「…じゅうぶんだよ、その言葉で。」
そうではなかった。それがわかった。それだけでこの上なく幸福だった。
「きっと満足に連絡も取れないと思うけど。でも、必ず返事をする、時間がかかっても。」
「うん。」
「隙を見て電話だってする。」
「無理しないで。」
「…ん。」
抱き締める力がいつもより強く、少しばかり息苦しかったが、それが今は嬉しかった。
菜月もしっかりと抱き締め返す。感触を、忘れないように。
骨張った手も、無駄のない肉体も、少し緊張していた表情も、達した瞬間の小さな声も。全て焼き付いて離れない。夢に出てきたらどうしようと思うくらい。
細い手首が、華奢な体が、苦痛に歪んだ表情が、吐息混じりの湿った声が、この先何かにつけて脳裏を過ぎるのだろう。そんな少しばかりの弊害さえも幸せだと思う自分は重症だと思う。
「菜月が好きだ。」
「私も一成が好きだよ。」
また明日、はないけれど、心はすぐそばにある。切なさに震えても、寂しさで涙が溢れても、心で寄り添い合えばいい。
「…いってらっしゃい。」
「ん、いってくるピョン。」
改札に消えていく後ろ姿。
寂しくないなんて嘘だけど、
繋がっているから、大丈夫。
虹の向こうに、君の笑顔が待っている。
夏の虹
どこまでも行ける。
2人なら。
fin.
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2020.4.16〜2020.4.27