*【三井】もしも運命の人が
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ばらばらに散ってしまった点と点。
あなたと出会って、また繋がった。
未来は明るいのだと、教えてくれた。
ありがとう。私の大切な、大切な…
「あーあ。」
「残念でしたね。」
「仕方ねーよ。あそこが優勝するから俺たちは準優勝。」
「準優勝だらけの大会じゃないですか…。」
インカレは早々に負けてしまった。当たった相手が悪かった。猛獣と猛獣使い…もとい、河田と藤真擁する深体じゃ流石にな。負けるつもりはなかったけど、正直、正直に言うと、勝てる気もしなかった。
「この後は?」
「大学帰って反省会だな。俺らも引退かぁ。」
天皇杯の切符も手に入らなかったのでここで終わりだ。呆気ないもんだな。
「お疲れ様でした。」
「おう、サンキュー。」
「私は寿さんのプレーがまた観られて嬉しかったです。」
「なんだよ、急にかしこまって。」
「言いたくなって。」
「辛気臭えなぁ。」
「ちょっと!」
明音の頭をがしがしと撫でる。嬉しかったんだ、たぶん。目の奥がじんと熱くなって、それを誤魔化した。
「見せ付けてくれるよなぁ。」
「げ、藤真。」
「よお。…せっかく褒めに来たのにムカつくな。」
「おーおー、なんならもっと見せつけてやろうか。」
「やめて下さい!」
「そーだぞ。ムカつくな、三井のくせに!」
「で、なんだよ。」
明音の肩を抱き寄せたまま藤真に先を促すと、ふん、と鼻を鳴らす。僻みか。…お前なら引く手数多だろうに。
「…。」
「言えって。」
「宮城とお前は相変わらずいやらしいコンビネーションでした。」
「おお、褒めるねぇ。敬語なのがなんかムカつくけど。」
「…お前のスリーは相変わらず脅威だったよ。もっと強いリバウンダーが居たら勝てる気しなかった。」
「落ちたやつは河田にもぎ取られちまったもんなぁ。」
「それも数本だろ、めちゃくちゃ入れやがって。」
「はは。わざわざありがとな。」
「…別に。」
「優勝しろよ。」
「お前に言われなくてもするっつーの。なあ彼女さん、三井になんか嫌なことされたらいつでも言いにこいよ、メッタ打ちにするから。」
「…え?」
「急に矛先変えんなよ。明音、無視でヨシ。」
じゃーな、と藤真は片手を上げて踵を返す。義理堅いやつだよ、まったく。
「ぶち美人じゃ…!」
「はあ!?」
「変な気起こしたりとかしないんですか!?」
「しねーよ馬鹿!」
こいつ時々よくわかんねえよ。そういう趣味趣向は持ち合わせちゃいねえっつうの。
「俺はお前だけ。」
「寿さ」
顔にかかる髪を耳にかけてやり、顔を近付ける。
「三井さーん!召集!」
けたたましい足音と声に、弾かれたように離れる。正体は中村。こいつ、どこかで見てたんじゃねえのか。
「ち…。わーったよ。」
「あれぇ、俺邪魔しちゃいましたあ?」
「分かってんじゃねえか。」
「あっはは!すんません!でも時間なんで!」
中村は明音の方を見ると屈託なく笑って手を振る。明音も笑顔でそれに応えた。嫉妬心はまったく生まれなかった。寧ろ、2人の関係の健やかさに心が温まるようで、
「明音、今度メシいこーぜ!」
「それは却下だ。」
…撤回、調子に乗るな。
手を振って別れる。とても清々しく、明るい気持ちだ。研ぎ澄まされた恋人のプレーは確かに相手を圧倒していたと思う。負けは負けだけど、とても良い試合を観られた。
「寒くなったなぁ…。」
両手に息を吹きかけて温める。手をこすり合わせながらマフラーに顔を埋めて、歩き出した。落ち葉を踏む乾いた音が心地よい。
どんなに足掻いても確かに季節は巡っていくのだと実感させられる。夜は明けるし、春は来る。辛いことも、いつかは終わる。幸せも、きっとそう。それでも今この瞬間を生きている。この瞬間を、大切にしたいと思えるようになった。
彼に出会ったから。
会いたかった人、忘れたかったこと、あなたに出会わなかったら、全部なかったことになっていた。なかったことにしたかったものも、私の大切な思い出のひとつなんだ。
帰ったら写真を飾ろう。
友達との写真、
あなたとの写真、
笑顔の写真を全部飾ろう。
ひとつのこらず、私だから。
もしも運命の人が
私を変えてくれてありがとう。
あなたと一緒なら、未来は明るい!
fin.
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2020.3.22〜2020.4.19