*【三井】もしも運命の人が
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思わぬ再会だった。
合宿が終わったら間髪入れずにインカレ予選が始まるそうで。観に行きたいって話をしたら早速日程を教えてくれた。バイトのない日で良かった。
「関東大学バスケットボールリーグ戦…大層な名前じゃ…。」
会場はまちまちで、大学でもやったりするとか。今回来たのは、ナントカ屋内球技場。観客もそこそこ入っている。
うろうろと歩き回っていると、携帯が鳴った。
『場所分かったか。』
「今着いたところです。」
『どこ。』
「エントランスの…あ、自販機があるところです。」
『待ってろ。』
程なくして寿さんが姿を現す。大学名の入ったジャージに身を包んでおり、なんとなく雰囲気の違いを感じた。
「お疲れ。迷わなかったか。」
「もちろん。」
少し立ち話をしていると、祥太が姿を現した。前もこんなだったな、でも今は心持ちが全然違うや。
「三井さーん。…お、明音。」
「おつかれさま。」
「仲直りしたのか。」
「仲直りって…。」
「しました!なのでまた遊んでもいいですか!」
「いいわけねえだろ。」
「…けちくさ。」
「ああ!?中村てめぇ、」
「それより召集っすよ、行きましょ!じゃーな!」
「う、うん。頑張ってくださいね!」
「おう。」
2人のやりとりが微笑ましくて、口元が綻ぶ。仲良いな、と思いながら観客席の階に上がり、空いている席を探す。比較的人の少なそうな所に腰掛けて、会場を見渡した。各校の応援だろうか、横断幕と、揃いのジャージを着た学生たち、あとは、OBや父兄だろうか。
ぼうっとしているうちに席が埋まってくる。どの大学が強いとか注目なんて情報は知らないので、盛況ぶりにただただ感心していた。
「すみません!お隣いいですか!」
「はい、どうぞ。」
女性の声に、反射的に快諾して顔を上げた。奥がまだ空いていたのでそちらへ詰めようとしたら、すみません、とその人…たちが奥に座った。
どこかで、
…あれ、もしかして。
「…晴子ちゃん、かな…!」
「え、あ、はい…そうです…あれ。」
ぱっちりとした目を何度か瞬かせこちらを見つめる彼女は、あの頃とそんなに変わっていない。
「あの、高校1年の夏に、広島で、」
「松井ちゃんのいとこの!明音ちゃん!」
晴子ちゃんは私の手を取って、久し振り!と感嘆の声を上げる。奥の大人っぽい女性が首を傾げているので、私は会釈をする。晴子ちゃんが紹介をしてくれた。彩子さん、は当時マネージャーをしていた方で、言われてみると、記憶の片隅に残っている。あの時は帽子をかぶっていらっしゃったからか、雰囲気が違っている。
「明音ちゃん、東京なの?」
「うん、進学で上京したの。」
「私も!また遊ぼ!今日は誰かの応援?」
「えっと…そう…。」
「私たちも。高校の時の先輩が出てるから!ね、彩子さん。」
晴子ちゃんは意味ありげににこにこと彩子さんの方をみると、彩子さんは、もう、と呆れたように腕を組んだ。晴子ちゃんは笑いながら私に耳打ちする。
「宮城さんって、彩子さんの同い年の選手が居るんだけど、どうしてもって頼まれたんだって。」
「えっと…」
「ひとつ上。あと、2つ上の三井さんも出るのよ。2人ともインターハイに出ていたんだけど、覚えてる?」
覚えてるもなにも。
宮城さんのことは寿さんがよく話してくれるので、実際に会話したこともないのよく知っている。姿は練習試合でもみたことあるし。
三井さん、は…その…。
彩子さんが、ちら、とこちらを見る。
「… 明音ちゃん、て、三井さんの彼女?」
「え」
「リョータが三井さんに彼女が出来たって騒いでて…。名前まで教えてくれたんだけど。」
「うわぁ…そんな…。」
「明音ちゃん…?え…?そうなの…?」
仰る通りだ。それにしても、まさかこんな風に繋がるなんて。片手でこめかみを押さえて息を吐く。晴子ちゃんはぱちぱちと星が飛ぶような勢いで瞬きをして、目をきらきらと輝かせた。
「すごい…!」
「す、すごい…?」
「すごい縁だよね!うわぁ〜どこでどう繋がるかわからないなぁ〜!」
「三井さんにはちょっともったいないんじゃない?考え直すなら今の内よ。」
彩子さんはにっこり笑って辛辣なことを言った。もちろん、そこには愛情が込められているのが分かった。
「そんな、私にはもったいないくらい優しい人です。」
「いやー!三井さんうまく騙してる!」
「彩子さん言い過ぎ。」
彩子さんの言葉に、晴子ちゃんが頬を膨らますと、彩子さんは、冗談よ、と笑った。
「…あいつら来てたのか。」
「なんで嫌そうなんですか。」
試合は勝利に終わり、軽い反省会の後すぐ帰宅した。明音が夕飯に誘ってくれて、一緒に過ごしている。偶然の再会に興奮気味の明音は、いつもよりもよく笑っていた。
「彩子さんと宮城さんは付き合ってるの?」
「知らねー。」
「なんで!彩子さん美人じゃけ、彼氏おらんわけないとは思うけど宮城さんならお似合いだわ…!」
「宮城はずっとぞっこんだけどなぁ…。」
「そーなの!?」
「おお、高校の時から。」
「彩子さん次第ですね…。」
「赤木の妹にも会ったんだろ。」
「赤木の妹…?」
「兄貴が俺のタメなんだよ。」
「へえ!さぞイケメ」
「覚えてねーの?インハイのうちのセンター。あれだよ。」
明音は考える風にしていたが、やがて思い出したのか、小さく、え、と漏らした。
「わかる?」
「でかい人…。」
「ゴリラみてーな。」
「んん…」
「河田じゃねーぞ。」
「誰…?」
「いい、忘れろ。」
記憶の引き出しをいくつか開けて探しているらしく、険しい表情をしている。やがて閃いたのか、口を開く、目を見開く、鳥のように忙しなく頭を左右に動かす、ぱくぱくと口を開け閉めしたあと、長く息を吐き出した。なんだそれ。
「あまりのことに頭の中で洪水と火事が起きてしまって。」
「風呂か。」
「なぞなぞしてるわけじゃなくて。」
「遺伝子の神秘だよな、あの兄妹。」
「私はそこまでは言えないですけど…。」
春休みに入ったら湘南や鎌倉に行くんだと言った。以前広島を案内してもらったお礼に、と赤木の妹が誘ったらしい。
「楽しみじゃ。瀬戸内海とは違うんだろうな!」
「海は海だろ。」
「そういうこと言う…?」
「俺とは一緒に行ってくれねえの。」
「…えっ。」
隣に座る明音の手を握って、横目で見遣る。明音はこちらを見て目を瞬かせる。
「地元は置いといても、箱根温泉とか行きたくねえ?」
「…行きたい。」
「じゃ、約束な。」
「うん…!」
よっぽど嬉しかったのか今日イチの笑顔を向けられて、俺も気分が良い。髪に触れ、顔を近付けようとした時、明音の携帯が震えた。
「晴子ちゃんからメッセージが、」
「…後。」
携帯に手を伸ばして取ろうとしたので、携帯を遠ざける。不満の声を上げたが聞いてやらない。
「今は俺だけ見てろ。」
こんな気分の良い時くらい、俺の好きにさせろ。
アーカイブ
覚えていて良かった、大切な思い出。
これからも忘れないでいたい。
どんどん増やしていきたい。