*【三井】もしも運命の人が
名前変換
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水平方向に走る線。
交わることがなくても、
限りなく近くを走っていたりする。
「就職決まった。」
「おめでとうございます!」
「サンキュ。」
就活してたんだ、という言葉を飲み込んで素直にお祝いの言葉を贈った。三井さんは照れ臭そうに笑う。
「何かお祝いしないと。」
「別にいーよ。」
「したいんです。」
「気持ちだけで…あ」
「なにかありますか?」
身を乗り出す私に、三井さんは口の端を上げて笑う。これ、何か企んでる笑い方だ、何を言うつもりだ。
「名前、呼んでくれよ。」
「…え?」
「いつまでも三井さんじゃなぁ。」
「…チッ」
「おいこら、舌打ちしやがったな。まさか、名前覚えてねえのか?」
あの飲み会で確かに自己紹介をした。漢字を聞いたときに、大変めでたい名前だなとすごく印象に残った。忘れるわけがない。
「…ひさし、でしたね。」
「お、覚えてんじゃん。そうだよ。」
今更呼び方を変えるのはなんとも照れ臭い話で、私は眉間にしわを寄せて唸る。
「そんなに呼びたくねえのかよ。」
「そんなわけないじゃないですか。なんでちょっと喧嘩腰なんですか。」
「ああ?そんなんじゃねーよ。」
「うそだ、隙あらば一発くらわしたろうって顔してる。」
「なんも食らわせねーよ。食うぞこら。」
「いやー!」
顔を近づける三井さんを遮るように両手を出すが、三井さんはそれを掴んで退ける。
「いいから呼べって。」
「呼んだら呼んだで何かするつもりじゃないですか。」
「…………しねーよ。」
「その間はする間じゃけ、言わん。」
「おいおい〜。ここでそれは反則だろ、呼ぶ前にするぞ。」
「やめて!」
笑いながら喉に唇を寄せる三井さんの髪が顔に当たってくすぐったい。大きな猫がすり寄ってくるみたいでなんだかちょっと可愛かった。知らないうちに両手は解放されていて、三井さんの腕はすっかり私の腰に巻き付いている。
空いた両手で、じゃれつく三井さんの頭を抱え込むように首に手を回す。
「…寿さん。」
「…おう。」
服の下に手を入れようとするので、こら、と叱り付ける。
「…だめ?」
「だめ。」
大きな猫は不満そうに体を離す。でもすぐに満足そうに笑った。
「やっぱいいな、名前の方が。」
にか、と笑ったその笑顔に、断ってしまったことを後悔した。
明音が呼ぶのを聞くと、途端に特別な響きを持った。不思議だな、ただの名前なのに。
「授業はもう殆どないんですよね?」
「まーな。単位落としたやつ取ってるくらいで…あとはゼミか。」
「卒論?」
「うちの学部卒論ねーんだよ。自由。」
「え?そんなんあり!?」
「実際ありなんだから、ありなんだろ。」
明音は、そっかぁ、と呟く。
「なに、お前んとこは大変なの?」
「まだなにも分からないですけど。卒業研究をして、それを論文にするんです。」
「げ。」
「だから所属する研究室も決めなきゃいけなくて。」
「本格的だな…。」
俺だったら絶対無理だな。頭パンクする。大学だってバスケするために通ってるようなもんだ、正直勉強は二の次。
「先輩から聞く、とかそういうのはねーの?」
「部活やサークル入ってればそういうの出来ますね…。でも私、入ってないんで。」
「バイト先は。」
「…あ、そっか!」
「俺より賢いはずなんだけどなぁ。」
何かを思いついた様で、途端に明るくなったその笑顔にこちらまで嬉しくなる。
「バイト先にぶち美人の先輩がいるんですよ。」
「…なんだと。それは行くしかねえな。」
「ちょっと。」
「はは。冗談だって。」
半分な。
「研究室かあ。」
「日下部さんはどこか決めてるんですか?」
「大体ね…。迷ってるけど。」
同じ大学で同じ学部の先輩は、私の質問に少し悩みながらも答えてくれた。彼女は積極的に自分の話はしないけど、聞けばちゃんと答えてくれる。自分より1つ歳上なだけなのに随分差があるなと感じさせるひと。とても美人。クールなのかなと思ったらかなりの友達思いで、怒られるかもしれないけど、意外だった。
「卒業後の進路は決めてるの?」
「栄養教諭目指してて。」
「そうなんだ。先生か、いいね。だったら、給食栄養もいいし、公衆…応用栄養もありじゃない?別に進路にとらわれる必要はないけど。」
「日下部さんは?」
「私は病院勤務かなと思っているけど…スポーツ栄養も興味あるのよね。だから、解剖生理もいいかなって。」
研究室の見学を前期に行ったそうで、興味深い研究内容もいくつかあったとか。内容が賢すぎてやや混線気味だ。
「…キャパオーバー、って顔してる。」
「えっ!」
「明音ちゃんさ、友達に似てるんだよね。先生目指してるところも一緒。考えすぎちゃダメ。やりたいことやるのが1番だから。」
何もかも見透かされてしまうようなその目にどきどきしてしまう。
「日下部さんって…その、彼氏、いるんですか?」
「いるよ。」
「へえ!何をしている人なんですか?」
「なにって、大学生。同い年の。」
バスケをしてるらしくて、もしかしたら三井さんのことも知ってるかもなぁとぼんやり思いながら、日下部さんが好きになるような男の人ってどんな人なんだろうかと気になってしまった。きっと素敵な人なんだろうな。
走査線
どこかで繋がっている。
きっといつか繋がる。
無駄な事なんてひとつもない。