*【三井】もしも運命の人が
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若気の至りとかって言うけれど、
それでは済ませられない。
人の心を、傷付けたのだから。
明音の話を聞いて、ますます愛おしいと感じるようになった。それと、中村を憎みきれない気持ち。やっぱり、あいつはただの調子乗りではない。練習中の様子を見ていてもわかる。あんな風だけど、同期や後輩への声掛けは上手い下手関係なく平等だし、先輩への気遣いもあれでいて細やかなところがある。余計なことも言うけれど。
明音のことを、きちんと見ていた。俺が思うに、あいつは明音を好きだったんだろうな。だからといって、傷付けたことには変わりないし、それは許されることではない。
「なあ明音、俺、昔ちょっと逸れてたんだよ。」
「逸れてた?」
「…グレてた。バイクに乗っけてもらって走り回ったり、喧嘩して人を殴ったりもした。」
「…うそ。」
「本当。」
俺が昔のことを語ると、明音は押し黙った。しかし、目を逸らさず、俺の膝に手を置いた。
「…引くだろ、俺、ひどかった。」
「それだけ、バスケが好きだったんですね。」
「そんな綺麗事で済まされるかよ。」
俺が目を閉じると、明音が両手で頬を包み込んだ。驚いて目を開けると、微笑むその表情が飛び込んできて鼻白む。
「話してくれてありがとう。」
「…俺の方こそ。聞いてくれてありがとう。明音のことも、話してくれてありがとう。」
頬に添えられた明音の右手に、俺の左手を重ねる。微笑み返して、触れるだけのキス。
「たとえ明音が明音を信じられなくても、俺が明音を信じるから。だから大丈夫だ。」
「ピグマリオン効果ですね。」
「なんだそれ。」
…講義で聞いたかもしんねーな。難しいことはよくわかんねえけど、俺は、安西先生や、赤木、木暮…チームの連中が信じてくれたお陰で、自分を信じられるようになった。今度は、俺が明音を信じる。明音が明音を信じられるように。
「中村のこと。」
「あ、はい。」
「二度と会うなとは言わねえよ。ただ、傷付きにいくような真似はするな。自分を大切にしろ。」
「は、はい。」
「それから…肩を持つわけじゃねえんだけど。」
「え?」
「中村には中村の、なにか思いがあったかも知れないな、って。あいつ、…悪い奴じゃねえだろ。」
「…はい、その通りです。私もそう思う。」
「だからといってあいつの言ったことはやっぱり許せねーけど。でも、言い訳くらい聞いてやってもいい、とも思う。」
「…そうですね。」
「…あんましいい気分はしねーけど。」
「ふふ。」
「笑うんじゃねえ。」
じゃれあうようにキスをしたり体に触れたりすると明音は嬉しそうに笑った。今までよりも、晴れやかに。
自然に体を重ねて、初めて明音の体を見た。本人が気にするのも分かる。けれど、
「これは全部明音の努力の証だよ。よく頑張ったな。」
綺麗だよ、俺は好きだ。
明音は顔を両手で覆っていた。
今回はそのままにしておいてやるか。
手の隙間からこぼれた涙に口付けた。
三井さんに話をしてからしばらくして、祥太に連絡をした。あの日は中途半端に帰ってしまってごめん、と。
『…もう一度話をしたい。きちんと、させてくれ。』
その言葉を、迷わず信じた。三井さんのお陰なんだろうな。
「あの時、本当にごめんな。…素直に謝るまでこんなに時間かかってどうかとも思うんやけど。」
いつもの調子で明るく話していたが、それが一転した。
練習試合の時に明音を見掛けて、最初は本当に分からなかった。似てる子だな、くらい。確信を持ってからは、会いたい気持ちが大きくなった。酒で気が大きくなっていた俺はすぐに電話をかけていた。
実際に会っても、でてくる言葉は素直になれず屈折したものばかり。上っ面でかっこつけて、懲りもせず傷付けた。
「信じてはくれないと思うけど、俺はお前が好きだったんだ。」
変わっていってしまうお前を見ているのが辛かった。こんなこと言うのは勝手かもしれないけど、俺も苦しかったんだ。お前の全てを受け入れられると思っていたのに、それが出来ない自分の弱さが。
ごめん、ごめんな。
笑い飛ばすことで憂さを晴らしていた。
お前を傷付けて、自分の弱さを隠したんだ。
あんなものは愛じゃない。そんな言葉で許されるものではない。
「明音、俺、本当にお前が好きだった。体のそれだって、お前の努力の証だ。」
「…ありがとう。」
「?なんだよ。」
照れたような、嬉しそうな顔をして笑った。あーあ、やっぱり可愛いよ。好きだよ。でも、違うんだよな。その表情は、三井さんのお陰で生まれたんだ。俺には出来なかった。悔しいなぁ、やっぱますますあの人尊敬するわ。
「まいった。」
「なにが。」
「俺、今回の件で三井さんのことぶち好きになってまった…じゃけ明音はライバル。」
「なに言っとん!?」
「はは、そういう好きじゃないけ、安心せえよ。」
「ライバルって言ったやん!」
「寝取ったりせんわ。」
「ねとっ…!」
「あはは!」
明音は可愛いよ。顔だけじゃなくて、心が綺麗だ。一緒にいて楽しいし、落ち着く。話やすい。最初から好きだった。
でも、お前の隣は俺じゃないんだな。
良かった、その笑顔が戻って。
三井さん、どうか明音の笑顔を守ってやって。そんなこと、俺が言えたことでは決してないのだけれど。
デコード
友達に戻ろう。
また他愛のない話をしよう。
もう間違えたりしない。
お前と俺の間にあるのは、確かな友情。