*【三井】もしも運命の人が
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私は今を生きる。
そう決めて、ここへ来た。
かねてより約束していた水族館。結局なかなか予定が合わなくて、三井さんが結構強引に空けてくれた予定に私も合わせる形で行くことになった。
「植田!」
「三井さん、お疲れさまです!」
「さんきゅ。植田もな。」
三井さんは部活終わり、私はバイト終わりで時間は夕方に近い昼過ぎ。水族館は6時まで。私のバイト先が水族館寄りだったので迎えに来てもらう形で待ち合わせた。なんだか、本当にデートみたい。
「忙しかったか?」
「えっ、」
「指先、黒くなってる。」
レジを打ったり、商品出ししたりしていると印刷物のインクが指に移ってくる。手を洗っても、なかなか落ちなかったりもする。細かいところを見られていて、落ち着きがなくなる鼓動。落ち着け、本当に。
「休日は、こんなもんです。三井さんは?」
「俺はほどほど。」
言いながら、テーピングの巻かれた指先。突き指でもしたのだろうか。お客さんにも、バスケやバレーをやる人が多いから見慣れた光景ではあるけれど、痛々しいことは痛々しい。
「…これ?」
「え、」
「よくある事だよ。慣れっこ。」
「でも、痛そうですよ。」
「そうでもねえけど…」
「突き指も骨折もした事ないから想像できない。」
「そうか。高校とか、部活なにやってたんだ?」
「部活…。」
知らず俯いてしまっていた。あまりいい思い出はないし、部活になんか所属していなかった。自分に自信のない時期、というか、自信を奪われた時期、というか。
「帰宅部、ですね。そんなにやりたい事なくて。」
「へー。その分自分の時間が出来て、それはそれで楽しかったんじゃねーの。」
「そう…かな。」
落ちていくトーンに、踏み込んじゃいけねえところに踏み込んだのかと思い至ったのは少ししてから。水族館に到着すると打って変わって楽しそうに水槽を眺める植田に、ほっとした。
辛いことがあったんだろうか。自分自身もあまり褒められた事ではない過ごし方をしていた時期もあったから、掘り下げられたくない気持ちはわからなくもない。
やがて閉館が近いことを知らせる放送がかかる。寂しそうに笑う植田に、こちらまで寂しい気持ちになってしまう理由は…なんとなく、わかっていた。薄暗い展示のスペースで手を握る。一瞬、手を引こうとしたのがわかったので力を緩めるが、今度はあちらから握り返して来た。
「… 植田。」
「はい。」
「…好きなんだけど。付き合わねえ?」
唐突な告白に、頭が真っ白になった。
三井さんが、私を、どうして。まだ会って3回目、私のことを好きってなんで。なにがわかるの。うるさい静かにして、と落ち着きのない心臓を叱咤する。
「えっと…」
嬉しい、幸せ。私も好きです。素直に言葉にできず、喉に引っかかってしまう。素直になればいいのに、どうして上手くいかないんだろう。
「…悪い。」
「えっ」
「困らせたいわけじゃねえんだけど…急過ぎたよな。」
「そんなこと、ないです…。ただ、驚いていて…。」
しどろもどろになってしまう私を見下ろす三井さんの目は優しいような困ったような色をしている。私、たぶん、三井さんのことが好き。私が好きになってもいいの、こんなにも、素敵なひとを。
「すぐじゃなくても、いいから。」
「え、」
「ただ、握り返してくれたこの手の意味を、教えて欲しくて。」
答えなんてとうに出ている。意味なんて、ひとつしかない。
「…私も、三井さんが、好き。」
ようやっと言葉になった想いは、ゆっくり私の体に行き渡っていくようだった。自分の気持ちなのに、すぐに浸透しない。邪魔なものが多すぎる。
「…そっか。」
今度は嬉しそうに笑って、繋いだ手に力がこもる。この温もりは信じても大丈夫、この人は、大丈夫。この人なら傷付かなくてすむ。
祈るように、何も言わずに微笑みかけた。
フォーカスロック
目の前のあなたを信じる。
どうか、いつまでもそのままで。