*【三井】もしも運命の人が
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思い出の人に出会った。
その人は本当に存在していた。
息をしていて、熱を持っていて、声を発した。
そんな感覚が忘れられず、バイト中もなんとなく上の空。翌日学校へ行けば、友人たちから質問ぜめにあった。
「あの後どうなったの?いい感じになった?」
「どうもこうもならないよ…送ってもらってサヨウナラ。」
それより気になったことを逆に聞く。
「三井さん、数合わせで来たって言ってたけど、私もそうだよね?どういうこと?」
本当の数合わせはどっちなの、と詰め寄ると、幹事の女の子が苦笑いした。
「明音、方言直したいって言ってたから、こっちの方の人と付き合ったら直るんじゃないかな〜と思って…。」
「そりゃ、外国語覚えるのにその国の恋人作るのが早いって言うけど…」
呆れつつも、友人なりの気遣いに感謝をする。
「でも、そういうことなら、ありがとね。」
それより自分はどうなったのかと逆に問いかけると、
「あの人はダメだね、女のこと下に見てるわ。無理。」
そんなこと言って笑ってた。また誘うね、と言われれば、もういいよ、と返して時計を見る。今日はこの後午後1コマ空いて4限に授業がある。友人たちは時間までランチがてら買い物に行くと言って行ってしまった。私は学食でひとり食事をしていると、携帯が震える。通知画面の名前に、目を見開いた。慌てて確認すると、三井さんからのメッセージ。
『今日練習休みになったんだけど、暇ならメシ行かね?』
マジか、と心の中で叫び、なんて返信すればいいんだ、と慌ててしまう。
『バイトないんで大丈夫です。行きましょう!』
おお、マジか。自分で送っておいてなんだが、色よい返事に面食らう。すぐに返信を打つ。
『今日は何限まで授業?』
『4限までです。三井さんは?』
テンポの良さに思わず笑みが漏れる。友人に、何ニヤついてんだよ、と言われれば、ニヤついてねーよ、と返すが、その言葉に説得力がないことくらい自覚している。
「なんだよ、こないだの合コンの子?」
「さあな。」
「なんだよー数合わせで来た割にはちゃっかりしてんなー。」
「なんのことだ?さっぱりわからんなぁ。」
肩をすくめて、昼食の生姜焼き定食をさっさと平らげる。体育館寄ってくわ、と友人に告げて学食を後にした。
待ち合わせの場所へ行くと、すでに三井さんが待っていた。よお、と片手を軽く上げて微笑むので慌てて駆け寄る。
「お待たせしてすみません。」
「全然待ってねーよ。それより、店行こうぜ。」
案内された先は、カフェのような佇まいの小洒落たお店。外には黒板に今日のおすすめが書かれていて、察するにスペインバルのようだった。
「俺も初めてなんだよ、野郎とじゃ入り辛えだろ。」
「たしかに。」
思わずこぼした笑みにつられてか三井さんも笑う。席に案内されるとドリンクメニューを見ながら三井さんが口を開いた。
「たちまちビール、だっけ?」
「ちょ、やめて下さいよ…。」
「他には何があるんだ?」
「えぇ〜…」
飲み物と食べるものを軽く頼み、出てくる間に広島弁講座になる。私は直したいんだけどなぁ、なんて思いながら、三井さんの方にある取り皿を指差す。
「うちじゃたわんけぇ、取って?」
「ん?今のは?」
そのお皿をこちらに寄越しながら三井さんが首を傾げた。
「私では届かないので、取ってくださいって事です。」
届くけどね、と恥ずかしそうに下を向く植田に、思わず手を口にあてがう。なんだそれ、可愛いんじゃん広島弁。
「た、高い所の物を取って欲しい時に使うのが一般的、かも!」
誤魔化すように、植田は顔を上げてやや早口に言う。そこへ丁度店員が、飲み物と早く出る食事のものを運んできた。
酒も進み、程よく仕上がってきた頃、植田がぽろっと、広島弁直したいんよ、とこぼす。
「なんだって?」
「折角東京出てきたけぇ、垢抜けたい…。」
「そうか?可愛いじゃん。」
「そんな簡単に可愛いなんていったらいけんよぉ…女殺し。」
「酔ってんな、そろそろ帰るぞー。」
「なんでよ〜もう少し付き合ってや。もう、はぶてるけぇ…。」
ぷい、とばかりに植田が顔を背けるのを見てたまらず吹き出し、トイレ、と告げて席を外す。ダメだ、俺いますげー顔ゆるい。
「はぁ〜またやっちゃった…」
頭を抱える。こんなことなら断ればよかった、とか、憧れの人に会えたからって調子に乗った、だのと悶々とする。
「お待たせ。」
三井さんが戻ってきた。明らかに気落ちしている私を立ち上がらせると、出るぞ、と外へ連れ出した。
「まだ少し冷えるなぁ。寒くねえか?」
「大丈夫です…。じゃけ、心配せんとって下さい。」
「気持ち悪いか?」
「いえ、でも、強いて言えば自分のことが心底気持ち悪いです。」
「なんだ、方言はおしまいなのか。」
くく、と笑う三井さんを、もう!と軽く小突く。
「いいんじゃねえの?俺は好きだけど。」
「簡単に好きとか言いよったらいけん…。」
「可愛いよ。」
「だから!簡単にそういうこと言ったら」
「はぶてる、だっけか?」
「〜〜〜っ!」
恥ずかしくなり、消えたい、とそれこそ消え入りそうな声で言うと、三井さんが少し屈んで覗き込んでくる。
「消えちまうの?」
「出来れば。」
「それは困る。」
「俺はもう少し植田のことを知りたいと思ってんだけど。」
ぽん、と頭を撫でられ、顔を上げた。
「次は…そうだな、水族館でも行こうぜ。」
「え、」
「デートに誘ってんだよ。」
「!」
「…まあ、俺も練習あるし、そうそう出掛けられねーんだけど。」
後ろ頭をかきながら苦笑いする三井さんにきょとんとしながらも、口元が綻ぶ。
「じゃあ、次は水族館かいね。楽しみにしとるけぇ、連絡下さい。」
「おう、植田も、いつでも連絡して来いよ。」
家の前で別れてから、ふと我にかえる。
あれ、これって、恋人の会話なんじゃないの。でもまだ好きとか付き合うとか言ってないし。都会の恋はレベルが高過ぎて分からん…たいぎい。
テクスチャー
改めて感じる彼の鮮明な質感。
確かにそこに存在している。
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はぶてる、ふてる…拗ねる
たいぎい…面倒くさい、大変、疲れる
そんな意味だったと思います。
広島の友人曰く「背の小さい子が『たわん』って言った時の破壊力は凄まじい」らしいです。