*【三井】もしも運命の人が
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こんなの、ドラマか映画の世界の話でしょ。
今日の運勢、恋愛運はそこそこ。もしかすると焼け木杭に火がつくかも?そんな星占いに、なんじゃそりゃ、とつっこみを入れてテレビを消す。
これから合コンだと言うのにそんな結果は的外れだ。数合わせで誘われたのでどうでもいいのだけど、でも、多少は、期待しないこともないわけで。あーあ、なんだかなぁ。
開始時間前に友人たちと事前打ち合わせをすることになっていて、待ち合わせしたカフェでわいわいと談笑する。みんな可愛くしてきてるなぁ、きらきらだ。
「私、幹事の人狙ってるんで、よろしくねー。」
打ち合わせって、そういうことか。そんなことを思いながら、今日のメンバーの雰囲気などの情報をこちらの幹事の子が話してくれるのに相槌を打つ。
「相手は4年生なんでしょ、2コ上かあ。」
「高校の時の1年生からみた3年生ってめっちゃ大人じゃなかった?」
「わかるー!自分がなってみるとそうでもないのにね。」
わいわいと盛り上がり、時間が迫ってきたら、いよいよ本番とばかりにかわるがわる化粧室で化粧直し。きらきらが更にきらきらしてる。うう、眩しい。
ありふれた居酒屋で会が始まったのだがどうも男性の人数が足りない。
「あー、1人少し遅れるって。練習熱心だからなぁ。」
なんの、と聞こうとしたが飲み物を運んできた店員に遮られそのまま乾杯に移ってしまった。しばらくして、けたたましく扉が開けられる。
「わり、遅れた!」
「おせーよ三井!」
「だから悪いって。」
そう言いながら彼はキョロキョロと見回し、やがてこちらにやって来た。
「ここ、いい?」
「あ、もちろんです、どうぞ!」
向かいに座った彼に、私は慌ててドリンクメニューを開いて渡す。
「たちまちビールですかね?」
「たちまち?」
「あ!や、…取り敢えずビールですか?」
「そういう意味か!おう、たちまちビール!」
いきなりやった…。
上京して2年、いくらかおさえられるようになってきていた故郷の言葉。あまり慣れていないアルコールに緊張が緩んでいた。
「どこの方言?」
「広島です…。」
「へえ、俺行ったことあるよ。試合で。」
「えっ、そうなんですか、なんの?」
「バスケ。インターハイ出たんだよ。」
「インターハイ!?すご…。」
その時、三井さんのビールが運ばれてきて、改めて乾杯となる。簡単に自己紹介をした後自分の飲み物に口をつけながら、ふと思い出す。
「私、バスケの全国大会見に行ったことあります。」
「マジ?」
「はい、高校1年の時なんですけど。いとことその友達が泊まりに来てて、一緒に行ったんです。すごかった、感動した!」
「いい試合見たんだな。どこの?」
「湘北ってとこです。いとこがそこ出身で、3試合見たかな。」
そこで三井さんが軽くビールを吹いた。
「わり、」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫…。それで?」
「へ?」
「どんな試合だったか、覚えてる?」
優しくこちらを見下ろすその目に、急に緊張してしどろもどろになってしまう。
「私はバスケあまり詳しくないんですけど…。特に山王ってとこの試合は身につまされるというか、途中息苦しいくらいだったな…。」
思い出してきた。そうそう、あの試合の、あの人、すっごくかっこよかったな。皆かっこよかったんだけど…。
「ルーズボールを諦めずに取りに行った人がいたんですけど間に合いそうになくて。そしたら彼のチームメイトが思い切り突っ込んでいってて…。もう、見ていられないのに目が離せないって感じの試合でした。その選手はその時怪我したみたいで、」
そこまで話して、我に返る。
「ごめんなさい、めっちゃ語ってましたね…。」
「全然、俺が聞かせて欲しかったから。他にはある?」
「えっと…その、3Pシュート打ってた人のフォームが、素人の私から見てもすっごく綺麗で見惚れちゃったかな、なんて、あはは…。」
言ってて照れてしまったので笑って誤魔化す。三井さんの方はというと、少し考える風にしていた。
「三井さん?どうかしました?」
「桜木は元気だよ。」
唐突なその言葉に目を瞬かせる。
「あ、そうだ、桜木くんでした。晴子ちゃん…いとこの友達から時々連絡もらってて。もうバスケ出来てる…って…」
ん?あれ?
「三井さん、知ってるの?」
「俺も全国出たって言ったろ。」
「ああ、はい。」
「出たの3年の時だから、お前が観に行った大会、俺もいたんだよ。」
「そうなんですか!じゃあ、あの試合知ってますよね、」
「俺、湘北だったんだよ。」
三井さんは笑いを堪えるように口元を押さえている。私は、たぶん、相当間抜けな顔をしていたんだと思う。
「そっかー、見惚れちゃったか。あん時の俺もなかなか捨てたもんじゃねーな。」
「あの、三井さん?」
「明音チャンが見惚れていたのは俺でした。」
びっくりしたか、と覗き込んでくる三井さんの視線から逃れるように慌ててグラスに口をつける。間違いなく頬が赤い。なに雄弁に語っちゃってんのよ私、めちゃくちゃ恥ずかしいよ…!
タイミングが良いか悪いか、友達に席を替われといわれ、会話のキリは悪かったが、それ以上踏み込むことも踏み込まれることもなかった。
でも、その後の誰かとの会話など、頭には入ってこなかった。
もう一軒行こう、と男性の幹事が声を掛ける。友達もそれについていくようで、どうするの、と聞かれたが、明日は朝からバイトなので断った。視線を彷徨わせると、同様に誘いを断る三井さんが視界の端に入った。
「俺は明日も練習なの。楽しんで来いな。」
そう言って手を振っていた。こちらに気が付くと、お前も帰んの、と寄ってくる。
「あ、はい。バイトなんで。」
「そーなんだ、なんのバイト?」
「スポーツ用品店ですよ、どうぞご贔屓に。」
偶々持っていたリーフレットを差し出すと、仕事熱心だな、と三井さんは笑いながら受け取ってくれる。駅に向かう間も、学校生活はどうとか他愛もない話をしていたが、やがて住んでいる場所が近いことがわかった。
「送るわ。もう遅いし。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。早く帰って休んでください。」
そう言う割に私の足元はおぼつかなくて。それを見咎められてしまったのか三井さんは呆れたように口を開いた。
「そんな状態の女を1人で帰らせる?馬鹿いうなよ。」
言葉は強いのに優しさが伝わってきて、胸が苦しくなるようだった。酔ってるからすこしだけ気持ちに隙が出来てしまったのかもしれない。
「送って頂き、ありがとうございました。」
「かたいなー。いいってことよ。なんかあったら連絡しろよ、困った時はお互い様って事でさ。」
そう言って三井さんが携帯を取り出したのでそれに倣った。結局誰とも連絡先を交換することはなく、ただ1人、三井さんの連絡先だけが追加される。
「数合わせで行ったけど、行った甲斐あったかもな。」
「え?いまなんて、」
「何もなくても連絡くれな、植田。じゃ、おやすみ。」
「あ、み、三井さんも!いつでも連絡下さいね、待ってます!おやすみなさい!」
優しく微笑んで手を振って帰って行く三井さんの後ろ姿を、みえなくなるまでずっと見ていた。
彼も私も数合わせ、ってどういうことだろう。友達にちゃんと聞いてみなくちゃ。それより、
「私、何言った…?」
隙の出来た心から漏れた本音、一度口から出た言葉は戻せない。
モンタージュ
焼け木杭に火がついたわけではないけど、
思い出の人が現れてしまった。
笑顔が焼き付いて、離れない。