*【岸本】Courage et fierté
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私の知らない貴方を知ると、
別々の道を歩んできたことを実感する。
「呆れたもんやろ。」
「幼さ故と言えばそうですけど。」
体を寄せ合い、実理さんの話を聞いていた。何を考え、どう過ごしてきたのかを知った。やるせなさや悔しさを抱えて戦ってきた彼らを、私は責めることはできない。高校生だったのだから。
それを良しとすることはできない。
やり方は正しくなかった。
でも、根底にある純粋さは間違いなく本物で、それを取り戻した彼らは確かに強かった。北野さん、という拠り所。
「今は違うじゃないですか。」
「…そうやけど。」
「やり直せないことを悔やむのは、もういいんじゃないですか。もう、十分ですよ。」
「…。」
「この先ずっと抱えていく消えない想いは捨てなくてもいいです。でも、もう悔やまないで。」
「麻衣、」
「あなたがバスケをしている姿、とても素敵です。どうかそれを誇りに思って欲しい。」
そっと、左耳のピアスに触れる。
「勇気と誇りは、ここにあるよ。」
私の手に、実理さんの手がかさなる。
「…おおきに。」
その手が腕を伝って私の頬を撫でた。微笑むその顔が優しくて、涙が出そうだった。誰も知らなくていい、この人がこんなに優しい人だなんて。本当は純粋でまっすぐなのに、屈折して見せるところも、全部私だけが知っていれば。そんな独占欲を、この人は知らない。知らなくていい。
「あんま欲しそうな顔すんな。」
「え、は!?」
「…何考えとんねん、全部言えや。」
「言いませんよ、当てて下さい。」
「おーおー、吐かせるで。」
「ちょっと、待っ…!」
前言撤回、優しくなんてない!意地悪だ!
「体力はあんねんな。」
「…ほんっとしんじらんないっ!」
ばしん、と肩をはたく。意に介した様子はなく、笑いながら腕の中に閉じ込められる。もうやだ、幸せだ。
「…お前と会えて良かった、麻衣。」
耳元で響く心地よい低音が鼓膜を揺らす。尽く体が反応してしまう。
「私も、岸本さんに」
「名前、呼べや。」
「うぐ」
「なんでやねん。」
「み、のり…さん。」
「スムーズに呼べや。」
「実理さん。」
「呼べるやん。」
「もう!」
「はは。」
話す声も、笑う声も好き。プレーを目で追っていただけなのに。神様にこの想い全部消してもらいたいくらいだったのに。溢れて溢れて止まらない。諦めなくて良かった。
「実理さんに会えて、本当に良かった。手の届かない存在だったのに。」
「おお、そない崇拝されてたんか。」
「そうですよ。話してみたら普通の人でしたけど。」
「ちょいちょい辛辣やな、南の親戚だけあるわ。」
「烈くんの名前出さないでください!現実に引き戻される!」
「あはは、ホンマやな。」
実理さんは腕をほどくと起き上がって、衣服を集める。
「風邪ひかんうちに着ろ。」
「はい。」
「…別にそのまんま寝てもええんやけど。」
「着ます。」
「そうやな、流石に第3ラウンドは俺もキツいわ。」
「やめて下さい!」
ホックにもたつく。すると実理さんが前から背中に手を回して着けてくれる。
「なに動揺してんねん。はよ着けぇ。」
「…なんか慣れてますね。」
「あぁ?」
「威圧…。」
「してへんわ。してへんけど…そう思わせたんなら、すまん。」
「え、あ、や、違います、ちょっと」
からかっただけ、なんて言おうものならなにされるかわからない。こういう時は、ええと、
「ちょっとなんや。」
「器用なんだなぁ、と。」
「…嘘が下手。」
服を押し付けられ受け取ると、実理さんも自分のを着る。間も無く夏とは言え、夜はまだ涼しい。着ながら小さくくしゃみをすると実理さんが、大丈夫か、と覗き込む。
「大丈夫、誰かが謗ってるだけ。」
「それムカつくな。誰やねん。」
「烈くんですかね。」
「今度殴っとくか。」
「やめて下さい。」
こうして笑い合える日を、一緒に歩いていきたい。
溢れる愛情と、笑顔
全部あなたに注ぎたい。
あなたから注がれる全てにこたえるために。