*【岸本】Courage et fierté
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触れたところから広がる甘い痺れ。
あなたが欲しいという劣情。
幻滅、されてしまうかな。
「お先でした…。」
シャンプーにこだわりはあまりなかったけれど、使わせて下さいというのも申し訳ない気がして。なんとなくで選んだその香りを気にした。苦手な香りだったらどうしよう、とか。…シャワーを浴びながら、知りもしない昔の彼女と比べたりも、した。
岸本さんは録画したものを見ていたのか、リモコンを操作している。私の声に振り返ると、薄く笑ってテレビを消した。音でわかる、バスケの試合だ。
「おう。使いにくくなかったか。」
「とんでもない!綺麗にされてるんだなって。」
「さっき掃除したからな。」
「ふふ、そうですね。」
「ドライヤー、使え。風邪ひく。」
「え、あ」
「なんや。」
立ち上がってこちらに近寄る岸本さんに身構えてしまう。そんな私を見て首を傾げる。
「ドライヤー…お借りします。」
「おう。」
私の濡れた髪を指先で軽く弄ぶ。ふ、と笑いかけられて、それだけで心臓が暴れだす。
「この香りすきなんか。」
「あ、あんまり意識してなかったです…。」
「ほーん、ええやん。ドライヤー、これ。」
「ありがとうございます…。」
私はきっとこの人に殺される。それはそれで本望だ、なんて酔狂にも程がある。
岸本さんがシャワーを浴びている間、手持ち無沙汰になってしまった。ふと気になったのはバスケの試合。リモコンのボタンを押し、再生する。これはなんの試合かな。青いユニフォームと白いユニフォーム。見覚えのある顔は、青の4番。
「烈くん…だ。と、よ、た、ま…。豊玉、高校!」
初めて見る高校時代の従兄の試合。高校、高校ということは。
「岸本さん、どれ。」
岸本さんが観ていたから、途中から。青5番にボールが渡ると近くから、岸本や、の声がした。え、あの、髪の長い人?違う人みたいだけどその顔も、プレーも、片鱗がある。
「うわ、なにこれ。」
汚いヤジ、荒々しいプレー。それは拙さからくる粗さではなく、少なからず悪意を含むそれ。今と全然違う過去を目の当たりにして、言葉を失った。烈くんのマッチアップは11、プレーの雰囲気的におそらく下級生。その彼と、10の彼からはただならぬ才能を感じた。烈くんと、岸本さんがついているのも頷ける。
「……っ!」
リモコンを取り落とした。
烈くんの腕、正確には肘が相手の子の目の近くに入った。故意なのか過失なのか本人にしかわからない。故意ではなかったと信じたい。
「…大丈夫か。」
髪を拭きながら、慌てて出て来たような雰囲気の岸本さんを見上げる。岸本さんは画面を見て、ため息をついた。
「…大好きなツヨシクンが語らない高校時代や。」
「…はい。」
「それでも、見るか。」
「はい。」
どかりと隣に座る岸本さん。髪は濡れたままだしバスタオルを肩にかけた状態で上半身は裸のまま。
「風邪、ひきますよ。」
「俺馬鹿やからひかへんわ。」
画面を見たまま答える岸本さんの空気は少し張り詰めているようだった。
「…すみません、先輩方の大事なバスケ部をあんな」
「謝らんでええって。いい試合してたやん、最後の方なんか特に。なんか目が覚めたように無邪気なバスケしとった感じなん、すごく記憶に残っとるわ。」
岸本さんが他社の方と交わしていた会話を覚えている。あの時から気になっていたの。だから見届けたい。隣に座る恋人の、ありし日の姿。ありのままの貴方を、信じているから。
岸本さんの手を握る。
何も言わず、ただ握り返されたその指が、愛おしい。
過ぎた日ではなく、貴方を信じる。
私が知りたいのは、貴方のこと。
全部、おしえて。