*【岸本】Courage et fierté
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何度お前に触れたいと思ったことか。
俺はとうに我慢の限界を超えている。
「お、お邪魔します…。」
躊躇いがちに部屋に入ってくる黒川。来い、とは言ったものの、碌な準備もしていないので部屋は雑然としたままだし、洗濯物も干したまま、掃除機は午前中偶然かけたくらい。
ショッピングモールで黒川の生活用品を買い揃える。本人が最低限必要なものだけは持って来させたが、それ以外は買えばいいと半ば強引に連れてきた。
「しまう所あるかな…。」
「別にうち置いてけばええやんけ。」
「え、え!?」
「なんや。」
「か、彼女面甚だしくないですかそれ…?」
「ええやん、彼女やし。」
なに照れてんねん。
「えっと…」
「荷物こっち置いたらええわ。それから、水回りここ。」
「はい。」
「冷蔵庫、勝手に開けてええから。」
「は、はい。」
「食器、コップもここにあんねん。…届くか。」
「ええと、はい、大丈夫です。」
「おん。」
干してあった洗濯物を入れながら窓を開ける。黒川は荷物を置くと、買って来た物を開ける。俺はハサミを手渡して、こちらはこちらで食品を冷蔵庫にしまう。
「ゴミって、分別あります?」
「別に…。」
「プラと可燃くらいは分けたほうがいいですかね。」
そう言って手早く仕分けていくのに感心してしまった。正直全部燃えるからええやろと思って、ペットボトルとか缶やらビンだのそういう明からさまな物以外は全部可燃ゴミ扱い。気にするんや、そうなんか。
「しっかりしとんな。」
「え?そんなことないですよ。普段は結構雑にやってるんで…。」
「じゃあそれでええやんけ。全部燃やしたれ。」
「ええー…。じゃあそうしよ。」
するんかい。色々と開封している間に水回りの掃除をする。野郎が来る分には別に気にせんけど、さすがに彼女来たら…なあ。
トイレも風呂場も掃除して、洗面台もあらかた片付ける。すると黒川が顔を出す。
「お手伝いします。」
「こっちは終わった。メシにするか。」
「じゃあ、支度しますね。」
「頼むわ。少し片付ける。」
テーブルの上に散乱した物を退けて除菌ティッシュで拭く。黒川が惣菜の蓋を開けて首を傾げる。
「お皿に移す派です?」
「そう見えるか?」
「見えません。」
「言うやないか。正解や。」
「洗い物増やしたくないですよねぇ。」
「気が合うやん。」
そう言ってテーブルに並べ、ビールを出してくる。
「缶のまんまで?」
「構わん。洗い物は」
「増やしたくない。」
「ん、合格。」
「嬉しくないなぁ。」
少し砕けた雰囲気になり、自宅に呼んだのは正解だったかも知れんと自分に言い聞かせる。ただ、距離を縮めれば縮めるほど、理性と煩悩の闘いは苛烈さを増す。
酒が進み、話が盛り上がり、やがて物理的に距離が近くなる。並んで座るその肩が触れるたび、意識をしてしまってかなわない。
夕飯がすみ、粗方片付けをしたところで風呂に入るよう促す。
「そんな、私後で大丈夫です、お先にどうぞ。」
「ええから、早よ入れ。」
気持ちを整えさせろ。もう限界やねん。バスタオルを手渡し、半ば強引に風呂場の方へおしやる。
「思った以上にキツい。これおかしなるわ。」
黒川の家に泊まったことはあった。しかしその時は別にそこまでそういう気持ちにならなかった。
想いが募る、というのはこういうことなのかと頭を抱えた。中坊でもあるまいし。
この上なく、愛おしい。
慈しむのも手折るのも俺の手がいい。
こんな俺を知ったら、お前はどう思う。