*【岸本】Courage et fierté
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健やかな寝顔も、朗らかな笑顔も、
…苦しみ悶える表情も、
全部見せて欲しい。全部守りたいから。
「おっ…と。危な。」
思わず声が出た。不意に死角から飛び出して来た自転車にブレーキを踏む。その拍子に黒川は目を覚ます。
「ん…。」
「すまん、寝とってええから。」
「ごっ、ごめんなさい!」
「はあ?」
「折角一緒に居るのに居眠りなんて…!」
「ああ?ええねん。無防備にしとってもらえるなんて彼氏冥利に尽きるわ。」
「かっ…!」
顔を真っ赤にして俯く黒川に、くつくつと笑う。なんやねん、可愛いやん。
「昼飯、俺の馴染みの店でええか。」
「もちろんです!わあ、楽しみ。」
「ホンマか?自分の食いたい物あれば言えよ。」
「いえ、馴染みのお店ってだけで楽しみです!なんのお店ですか?」
「お好み焼き。学生時代によお世話になってん。」
「岸本さんの学生時代…大学ですか?」
「んや、高校。」
「高校!!」
「テンションたっか。」
黒川は興奮していつもより力の入った声で返してくる。そんなにテンション上がることか…?
「高校…ってことは、烈くんも?」
「あ?そーやな。」
「烈くん、高校の時はあんまり学校のこと話してくれなかったから、その頃を覗き見するみたい。」
「そういうもんか?」
「そういうもんです。」
そう言って笑うと、今度は首を傾げて俺の耳を指差す。
「どうして左だけなんですか?」
「あ?ピアスか。」
「はい。」
「んー…深い意味はあらへん。」
「なんとなく?」
「おん、なんとなく。」
「…私、調べたんです。」
黒川がぽつりとこぼす。俺は店の駐車場に車をとめながら、ほお、とだけ返した。
「勇気と誇り。」
サイドブレーキを上げる。
「よぉ調べたやん。正解。」
「嘘つき。深い意味はないって。」
「別にわざわざ言うことでもあらへんやろ。」
「岸本さんのことならなんでも知りたいのに。」
その言葉に、吹き出してしまう。
「な、な、なんなんですか、もう!」
「んな可愛いこと言わんといてほしいわ。」
「なんっ…」
シートベルトを外して、黒川の方へ身を乗り出す。
「…心配せんでも教えたるわ、全部。」
唇に触れるだけのキスをして、鼻の当たりそうな距離で小さく呟く。黒川は卒倒しそうな勢いで身を引き、シートに頭をぶつけた。
「った…」
「アホ。んな勢いで引くからや。」
「そんなこと急にされたら誰でもびっくりします!!」
「わかったわかった悪かった。降りるで。」
古びた店は何も変わらず、変わったのは一緒に来るのが腐れ縁の男から恋人になったこと。相変わらずここのババァはうるさいし、オッサンは淡々としとった。
それから、ころころとかわる黒川の表情がとても愛おしかった。
全てを見たい、全部欲しい。
全部を知りたいんは、俺の方や。
なにもかも、俺のもんにしたい。