*【岸本】Courage et fierté
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新たな始まり。
揺るぎない信念に従って、私は進む。
応援してると言ってくれたその笑顔に
精一杯、応えたいから。
「麻衣、久し振り。」
「土屋さん、お久し振りです!」
土曜の晩、土屋さんが飲みに連れていってくれるとのことで、バイトしていたカフェの近くで待ち合わせていた。少し洒落た雰囲気の、創作居酒屋らしい。
「仕事、慣れてきた?」
「はい。っても、覚えること多くて毎日テンパってます…。」
苦笑いしながら、運ばれて来たビールに手を伸ばす。ジョッキ同士を軽く合わせて乾杯し、口を付ける。
「週末はどうしてんや。」
「土曜の午前は仕事なんですけど、帰ったら家のことやって、日曜は廃人になってます…。」
「じゃあ家におんの?」
「まあ…はい…。でも、お買い物に出掛けたりはしますよ。」
土屋さんは溜息をついた。私は首を傾げる。
「楠さんぼやいててん。会社の部活、部員が増えたけどギャラリーも増えてちょっと大変やって。」
「はあ。」
「岸本、そない人気なん?」
「知らないですよ、会っても…ないし。」
「楠さん、ぼやき相手が欲しいんやと。たまには顔出したげたらどうや。」
「でも私、そこの社員じゃないですから…。」
岸本さんと最後に会ったのはいつだろう。頭ぱんぱんなのに心身は空っぽになっていくみたいで余裕なくなってた。バスケも、随分遠ざかっている。
「先輩想いの麻衣ちゃん。会いに行ってあげなよ。」
「…連絡はしてみますけど。」
なんとなく、億劫だった。
店を出て、少し歩く。ゴールデンウィーク前、日中はかなり暖かく汗ばむ日もあるが夜はやや肌寒い。ストールを首に一周させる。
ふと、何かに引き寄せられるように、視線をやった。そちらには、居酒屋から出て来る、男女。
あれ、は。
「……見んでいい。」
土屋さんの手が私の両目を覆った。
見間違えたりしない。一般人にはとても紛れられない長身。隣を歩く女の人がふらつくのを支えて、寄り添うように歩くその様はまるで恋人同士のようだった。
「岸本さん、でしたよね。」
「……そうやったかな。」
わけのわからない胸の痛みが走る。その痛みは、強烈に締め付けてくる。
視界を遮られたままの私は彼の顔を思い出していた。ピンぼけした写真のようなその笑顔はどこまでも優しくて。
私、恋をしていた。
間に合わなかったみたいだけど。
それでも、もう一度会いたい。
お願い、勇気を下さい。