*【岸本】Courage et fierté
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何度でも会いたい、その笑顔に。
「いらっしゃいませ…わ、岸本さん。早いですね。」
「定時退社日やねん。今日試合やろ。…席あるか?」
「ありますよ。こちらどうぞ。」
既に大盛況の店内に驚く。黒川はカウンター席でもいいですか、と首を傾げる。
「かまへん。1人やし。」
「夜はお酒も出してますよ、どうされます?」
「んー、今日はええ。1人で飲むんは主義に反する。」
「へえ、そんな御大層な主義をお待ちなんですか。」
「生意気言うようになったなぁ。」
烏龍茶と軽食を頼むと、モニターの方を眺める。ここで試合を観るんは初めてやったけど、こんなに盛り上がっとるとは知らなかった。
「岸本くんやな、活躍は知っとんで。」
「え?」
「俺ここのマスター。麻衣と…烈の叔父や。」
「あ、初めまして。」
「はは。俺は試合でよく見とったからあんま初めましてな感じはせえへんなぁ。」
「はあ、どうも…。」
待っとってな、と奥のキッチンへ消えていった。烈の、ってことはババァ…南のオカンのきょうだいなんか。入れ違いに黒川がおしぼりと水を持ってくる。
「飲み物は食事と一緒でいいですかね。」
「おお、それで頼むわ。」
すると、別の客が黒川の方を見て声を掛ける。
「麻衣ちゃーん、バイト今日までなんやっけ!」
「そうです〜お世話になりました〜!」
「国家試験、合格おめでとうな!」
「わ、よくご存知!ありがとうございますー!」
「そうなんか。」
「ですよ!ふふ、祝ってくださいよ。」
「はいはい、おめっとさん。」
「もう!」
はは、と笑いながらコップに手を掛ける。
「……うそやろ。」
「どうかしました?」
「あ、や、…お前の合格、ドッキリなんと違うか。」
「うわ、めっちゃ失礼。あはは!」
そう笑いながら声を掛けきた客の方へ歩いて行く。その後ろ姿を眺めながら溜息をついた。
にこにこと手を振る黒川を可愛いと思う反面、あまりいい気もしなかった。コップの水に映る自分の顔は驚くほど、情けないような頼りないような表情をしている。
わかっとる。
嫉妬、や。
恋をするつもりなんて、
これっぽっちもなかったのに。
どうか、この手から零れないでくれ。
気付いた時にはもう手遅れだった。