*【岸本】Courage et fierté
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私にとってバスケは、
生きがいであり、楽しみ。
バスケが好き。
見るのも好き。
でも本当は、プレーするのが、いちばん…
エンジンがかかる。岸本さんは車を発進させた。
「…どこを。」
「膝です。前十字靭帯。」
「断裂?」
「弛緩。」
「…すまん。わからんわ。」
「私も、自分がなるまでは知らなかったです。」
膝蓋骨を支える組織が緩み、脱臼、膝崩れを起こす。簡単に言えばそんな怪我。
「今は、治療もして、日常生活や体育程度なら全く問題ないんです。」
ただ、それまでのような、本気でぶつかり合うようなバスケはできなくなった。
膝崩れが、怖い。
歩けなくなるのが、怖い。
この恐怖が私の中から消えることはないのだろう。こうなると、選手として復帰するのは極めて難しい。
「高校のインターハイで、膝崩れを起こしたんです。」
逆転のスリーポイントを放った際、ブロックにきた相手と交錯した。シュートは決まったものの、私はそこから立ち上がることが出来なくなった。
そのまま、コートに立つことも、なくなった。
その試合は負けてしまった。なんかしら賞はもらったけど、あまりよく覚えていない。
「…そうか。」
「でも私、もう吹っ切れてるんです。お陰でこの仕事選ぶことが出来たし、マネージャーも楽しかった。ミニバスで子供教えるのも面白いですね。」
あはは、と笑ったが、岸本さんは溜息をつく。
「アホか、無理が丸見えなんや。」
そう言うと、家とは反対の方へハンドルを切った。
「……ええから。ここだけにしとき。」
きちんと治療して、きちんとリハビリを受ければ、選手としてまたコートに立つことも夢ではなかった。
でも、私が諦めた。
夢も未来も生きることも諦めた患者の前にすべての技術は無力だ、と、何かの授業で講師が言っていた。
「諦めたの、私。」
「でも、私みたいに諦める人が居なくなってくれたら…いいなって。」
そう願わずにはいられない。だから私は、そのために自分に出来ることをしたくて選んだ。
ず、と鼻をすする。最後は声が震えてしまった。
「勇気がいる決断やわ、よう覚悟したやん。励まし続けるのは骨が折れることやで。」
「でも、諦めてしまった私の言うことなんて、響くのでしょうか…。」
「それでもやるって決めたんやろ。」
赤信号で車が停まる。ハンドルにもたれて岸本さんはこちらを見た。
「かっこええやん。応援すんで、俺。」
信号がかわり、ゆっくりと右折して少し走ると、夕陽が綺麗な道に出る。窓の向こうに、堤防が見えた。
「しんどくなったらいつでも言えや。話くらい聞いたるから。」
黙ってしまった私の頭を大きな手が優しく撫でた。
このまま、車が走り続けたらいいのに。
叶わないって、分かっていても。
そんなことは無理だから、せめて、今だけは。