*【岸本】Courage et fierté
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小さな変化は、
じわりじわりと切り拓く。
「岸本さん、関西統括からお電話です。」
「おおきに。」
外回りから戻ると、見計らったように内線が入った。関西統括…なんか変なことしたか。費用精算の申請ミスとか?
「お待たせしました、岸本です。」
『お疲れ様です、総務の楠です〜。』
「お疲れ様です。」
固定電話の受話器を肩に挟み、ノートパソコンを起動させる。電話の向こうの女性はとてもリラックスした雰囲気だったので、ミスの類ではなさそうや。
『岸本くんさ、バスケやってたよね?』
「まあ…はい。」
『私、土屋の先輩なんやけど、関西統括本部でやってるバスケ部のマネージャーやってんの。』
よく知る名前が飛び出して小さくむせる。なんやて、土屋の先輩?
『部活言うてもそないスケールの大きいやつやないんやけど。』
「はあ…。」
『今度他社との練習試合すんのに、人数足りんのよ、子供がインフルエンザとか。』
そういえばそんな時期か。予防接種行ったわ。
『頼むから来てくれへん?超臨時助っ人!ボランティアやけど!詳細メールするから予定確認してや。』
「一応…考えますけど。」
『おおきに!なんとか頼むわ〜ほな!』
勢いよく切られ、少し受話器を見つめる。嵐みたいな人やな…。
社内ネットワークにログインし、メールを確認する。何通もある新着メッセージの中から件のメールを開く。日時、場所、対戦相手、などが書かれていた。相手はどんなもんかなど、マネさんの所感が書かれとる。
「ま…1回くらいええか。」
変な縁もあったもんや。
「ホンマにすまんなぁ、岸本くん!」
「いえ、久々なんであんまし役には立てへんと思いますけど…。」
「まぁたまた!まだ2年目やんけ、卒業してそんな経ってへんしいけるいける!」
ばし、と背中をしばかれる。いてて、と背中をさすっているとユニフォームを渡される。
「ポジションは4番、現役の時とおんなじやからやりやすいやろ。」
「まあ、はい。」
大学よりも、高校の時を思い出す。少しばかりしょっぱい思い出。ただ、悪いことばかりではなかったと思う。…そう、思いたい。
「先輩!お久し振りです!」
「麻衣〜ごめんね、折角の休みやのに!」
「いえ、平気で…」
シューズに履き替えながら黒川が顔を上げる。目が合うと後退り、入り口の戸にぶつかる。ごん、と鈍い音が響く。
「いた…え、なんで岸本さんいるんですか。」
「岸本くん、助っ人やねん。うちの部員ただでさえ少ないのに来れないひと多くて。」
「そうなんですね…はは。頑張って下さい。」
「おう。」
「麻衣、岸本くんのファンやったやん。喜ぶかと思ったんやけどなぁ。」
「お?そーなんか。」
「やめて下さいよ先輩!」
黒川は頬を染めながら楠さんを軽く小突く。なんや、そういうことやったんか、早よ言えや。
「サインでもしたろか。」
「結構です!もう!」
しかし、ファン、という言葉になんとなく距離を感じ、つまらない気分になる。なんでそんな気分になったんかは、ようわからんけど。
「まーええから見とけって。惚れるで。」
「はいはい、言ってて下さいよ。」
ホンマに惚れたらどうするんですか、なんて言いよるから、大歓迎や、と喉まで出掛かったのを我慢して笑いに変え、誤魔化すようにボールを突いた。
楠さんと打ち合わせをしている黒川の横顔はいつぞやと違い、とても楽しそうで、ホンマにバスケが好きなんやなぁとしみじみ思った。
いつか知る、本当のことを。
なんも知らん俺は、
なんともおめでたい奴やった。