*【岸本】Courage et fierté
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あまりに無邪気なその表情に、
息をするのも忘れそう。
岸本さんに連れられてやってきた体育館。既に何人かの子供たちが準備を始めていた。
「あ、キシモトさんや!」
「おう、おはよーさん。」
「おはよーございます!彼女連れて来たん?」
「ねえちゃんバスケできるん?」
「おいコラ群がんな。」
しっし、と岸本さんか手で払う仕草をする。子供たちは興味津々、といった具合にこちらを見上げてくる。…と言っても、私はそんなに背が高い方ではないし、高学年の男の子くらいにもなると目線がそんなに変わらない子もいる。
「はじめまして。黒川です、黒川 麻衣。岸本さんの彼女ではないです。今日は見学させてもらいに来ました。」
そう言うと、数少ない女の子が小さく手を振ってくれたので、手を振り返す。
「バスケは…」
「あっ、ミナミさんや!」
「ミナミさんおはよーございます!」
「キシモトさん彼女連れて来てん!」
遮るように子供たちが入り口の方へ声を掛ける。南、と呼ばれた男の人はシューズを履きながらこちらを見る。
「…なんで麻衣がおるんや。」
従兄の烈くんが、見たこともないような間抜けな顔をしていた。
「は?しかも岸本の彼女…?」
「違う違う!」
「んな力一杯否定せんでも。」
岸本さんは険しい顔をして溜息をついた。
「南とどういう関係なん。」
「従兄妹なんです、母親が姉妹で。」
烈くんと自分を交互に指差し、笑う。岸本さんは、似てへんなぁ、と呟いた。従兄妹なんてそうそう似るもんじゃないと思うけど。
「岸本さんこそ、どういう関係なんです?」
「…………ガキの頃からつるんでてん。」
「仲良しなんです…ね?」
「きもちわるいわ。やめい。」
烈くんは迷惑そうに唸った。岸本さんも鼻を鳴らす。なんだ、仲良いんじゃん。
「麻衣ちゃん、麻衣ちゃんはバスケするん?」
女の子が裾を引っ張って見上げてくる。
「んー、少しなら出来るよ。」
「黒川、マネジだけやないんか。」
「まあ、はい、高校まではプレーヤーしてたんで。」
そんな話をしているうちに、監督の方がやって来て皆そちらに駆け寄る。私もそれに倣い、岸本さんの隣に立つ。
「北野さん、見学したい言う奴連れて来たんですけどええですか。」
「よろしくお願いします。」
「おお、ええで。彼女か。」
「ちゃいます。」
「なんで南が答えんねん。」
その応酬に吹き出す。北野さんはけらけらと笑うと、椅子に腰掛けて指示を始めた。
子供相手に楽しそうに、時にムキになって言い合う岸本さんや烈くんの姿を見て、心が温まる。あんな風に笑ったり怒ったりする2人はなかなかお目にかかれないと思う。
「嬢ちゃん、バスケやれるんやろ。女の子教えたってくれや。」
「え、あ、はい。」
「難しいことは、ええから。本人たちが楽しいんがいちばんや。」
「…わかりました。」
(なんでわかったんだろう。)
北野さんはにっこりと目を細めた。私は髪を結い直して輪に加わる。久しぶりの感覚に心が躍った。
「麻衣、あんま無茶すんなよ。」
「しんよ、大丈夫!」
烈くんの声に、持てる限りの元気で答える。やや小ぶりのミニバス用ボールの懐かしい感触に、口元が綻ぶ。女の子だけでなく、男の子たちともやりとりする。そんな中で感嘆の声を上げたのは、岸本さん。
「うまいやん。」
にか、と笑ったその顔に、なんだか少し緊張してしまった。照れ臭いな。
今日は連れて来てもらって本当によかった。試合中の厳しい視線しか知らなかったけど、新しい一面を知った。
子供たちを見守る瞳には、
とても温かい光が灯っていた。
優しい瞳が、目映くて。
その眼差しがこちらを捉えた時、私は一瞬呼吸の仕方を忘れてしまった。