*【岸本】Courage et fierté
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大人になるにつれ、
賢しさばかりが身に付いた。
カウンター席に通され、並んで座る。いくらか酒が進んだ頃、黒川はこちらを見上げると、自身の耳を指差しながら首を傾げる。
「岸本さん、いつピアスあけたんです?」
「中学卒業してすぐ。」
「高校はそういうのうるさくなかったんですか?」
「………別に。」
「間がすごい。」
生活指導の教師には大変お世話になったかもしれへんな。監督はあまりうるさくはなかったが…別の点で合わなかったからそもそも聞く耳なし。
耳には大事な神経が沢山通ってるから素人が下手に穴開けるのはやめた方がええで、とか南が言っていたのを思い出す。わざわざ病院行くのもなぁ、と思ったけど、万にひとつでもバスケが出来なくなるのだけは避けたかった。
好き、やから。
そんな純粋な気持ちも、勝利への執着の前には脆くも崩れ去ったものや。苦い記憶と共に、色々なことが思い出される。
黒川がくすくすと笑う声に、我に返る。こいつは酒のせいか少し頬が赤くなっている。大丈夫か。学生やし無茶させんようにせんと…。
「岸本さんは休日なにされてるんですか?」
「お見合いかいな。」
「相手を知る常套句じゃないですか。」
「はは。どーせひとりやし、ミニバス教えに行ったり」
「ミニバス教えてるんですか!」
「めちゃ食いつくな。そない驚くことか?」
「子供相手にしてる岸本さんとか…………。」
「おいコラ、なんやねんその顔。」
にやにや笑う黒川の額を軽く弾く。いたっ、と小さく悲鳴をあげたが無視だ。
「恩師がミニバスの監督やってんねん。たまに遊びに行くだけや。」
「それでも見てみたいですよ、子供相手にする岸本さん!」
「高いで。」
「けちくさ。」
「おーきに。」
ビールジョッキを傾ける。黒川はテーブルに頬杖をつき、溜息をひとつ。
「楽しそうだなー。」
その横顔から読み取れたのは、寂しさのような、羨望のような。
「黒川は休みの日なにやってんねや。」
「私は勤労学生ですよ。明日もバイト。」
「明後日は。」
「休みにしました〜。」
「ほな来るか、ミニバス。」
「え?」
「あ?」
自らが放った一言に瞠目する。互いに目を瞬かせて黙ること、一寸。
「…行く。嬉しい。」
へら、と笑った黒川の笑顔は最高やった。
こんな気持ちはいつ振りやろか。
処世術という名の小賢しい知恵が付くばかりの日々が変化していく。
その表情を、眺めていたい。
黒川の笑顔に、また会いたいと思ってしまった。