*【岸本】Courage et fierté
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やれ胸が騒いだり心が躍ったり。
そんな出来事は歳を重ねるごとに減っていった。
バスケの試合を観に行く前に土屋に連れられて来たカフェ。南はなんや研修があるとかで野郎2人。わかるかこの絵面、最悪や。
「いらっしゃいませ…あ、土屋さん!」
「麻衣ちゃーん。元気?」
「元気ですよ。そうそう、就職決まりました!」
「お〜!おめでとさん。」
土屋が店員と親しげに話し始める。寒いからはよあったかいもん飲みたいんやけど。
「あ、こちらどうぞ。今日はここで観るんです?それとも会場へ?」
「会場いくで。岸本、この子、大学の後輩。マネージャーやっててん。」
「岸本さん、て!」
「せやで。」
「わー、初めまして。一方的に見てました。黒川です。」
黒川は、すぐにおしぼりお持ちします、と笑って奥に引っ込んだ。俺はマネージャーまでチェックは入れてへんから顔は知らん。ただ、正直に言うと、…可愛いとは思う。
「ここ叔父さんのお店らしいんよ。麻衣自身は実家三重で。」
「ほーん。」
「可愛いやろ。」
「せやな。」
メニューに目を遣りながら、ちら、と黒川の引っ込んだ方を見る。丁度おしぼりと水を持ってやってくるところで、目が合う。あちらは少し驚いた風だったが、すぐに微笑み返してくる。
「お決まりですか?」
「僕ホット〜。」
「俺も。」
「分かりました。お待ちくださいね。」
店内を見渡すと、意外と広い。そして何より、大きなモニターが気になった。
「結婚式の二次会にも使えるんやけど、あのモニターでバスケの試合観れるんよ。」
「ほーん。バスケ好きなんか、店長。」
「好きなんてもんやないで。大阪のチームのHCとめちゃ仲良しらしいねん。先輩後輩やったかな。」
「土屋詳しいな。」
「大学の時からよう来ててん。」
店の奥から豆を挽いた香ばしい香りが漂う。今日のスターターは誰かなどと土屋と話しているうちにコーヒーが運ばれて来た。
「お待たせしました。」
その声に顔を上げる。土屋が黒川となにか言葉を交わしているようだったが上の空やった。見上げた先の笑顔が、まぶたの裏に焼き付いてしばらく離れそうにない。
付き合っただけ、それだけ。
誤魔化すようにコーヒーに口を付けた。
胸の奥に、小さな疼きを感じながら。