*【藤真】彼はグリーンのサウスポー
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帰り際、担任に声を掛けられた。
「藤真、お前日本史の教科係だったよな。」
「はい。」
「悪いけど備品運ぶの手伝ってくんねーか。」
面倒くせぇ、と言いそうになって飲み込む。代わりに、わかりました、と答えると帰ろうと立ち上がった沢上の肩を掴む。
「手伝え。」
「はあ?なんで」
「体育祭の貸し。」
「ロングロングアゴーの話でしょ。」
「先月の話だろーが。」
「おー。多いからそうしてやれ。」
えー、と不満を漏らしながらも、溜息を一つつくと腕を組んで鼻を鳴らす。
「過払いだったら返還請求するから。」
「はいはい。」
担任と職員室に入ると、段ボールが積まれているのが目に留まる。…まさか、これ?
「二箱だから丁度いいな。」
藤真は迷わず大きな方を持つ。その姿に思わずときめいてしまったが、次の瞬間それは消え去った。
「おっも!小さいくせにおっも!!」
「小さい方が重いぞー。」
「やりぃ。」
「やりぃ。じゃないわよ!かえてよ!」
くつくつと笑う藤真を他所に担任は私の持っている段ボールの上に鍵を置く。
「社会科準備室に頼むわ。」
はい、と聞き分けよく返事をした藤真は歩き出す。私は慌ててその後を追った。
社会科準備室は階段を上ってすぐのところにあるのだが、手元の荷物の重さが加わって足取りは重い、物理的に。
「大丈夫か、沢上。」
「モーマンタイ…いや、重い。」
「あと少しだぞ、頑張れ。」
よく見ると、藤真の段ボールには持ち手がなく非常に持ちにくそうだった。それに引き換え私の段ボールには持ち手の穴があり、サイズ的にも運びやすい。重いけど。なによ。そういう気遣い、グッとくるじゃん。重いけど。
「なにボサっとしてんだ。」
「すぐ行く。」
階段を上り切ると、藤真は私の持っている段ボールの上に置いてあった鍵を持ち上げて鍵穴に差し込んで回す。ドアを開けると、入れ、とばかりに顎をしゃくった。
「ありがとう。」
「ん。」
荷物を適当なところに置くと、中身を確認する。藤真の方は模型みたいなのが、私の方は冊子のようなものがそれぞれ入っていた。
「紙のものは重かったろ、悪いな。」
「ううん、藤真の段ボールの方がもちにくそうだった。ありがとね。」
そう言って藤真の方を見上げたら、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。
「大したことねーよ。どういたしまして。」
つーか手伝わせたの俺じゃん?とか言ってる。なに、それ。
…私、その顔、
「好き…。」
そう口走って、はたと我に返る。いま、私、とんでもないこと言った…!
「………は?」
藤真の笑顔が凍りついたかと思ったら、素っ頓狂な声が漏れた。しまった、やってしまった、こんなはずじゃない。
私は後ずさると、ホワイトボードにぶつかる。ガシャン、という金属音に藤真が我に返った。
「沢上、俺、」
やだ、聞きたくない。警鐘が鳴る。心臓が早くなる。私は迷わず背を向けて駆け出した。
「さ…三十六計逃げるに如かず!!!」
逃げること、風の如し。