*【藤真】彼はグリーンのサウスポー
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あんな男でも、弱る時は弱るんだと実感した。バスケ部の中に居ると小さく見えるその体は、並んで歩くと平均以上の身長だし、その儚い雰囲気とは裏腹に頑丈なつくりなんだと勝手に思い込んでいたから少し驚いた。
「なーに見てんだよ。」
「そりゃ見るでしょ、早く消しちゃってよ黒板。」
学級日誌を書き終え、黒板を消す藤真の背中を眺める。こいつ、人に日誌を書かせておきながら呑気に黒板に落書きして遊んでいやがった。こんにゃろう。楽々に上の方まで消して、手をパンパンと払う。
「ホワイトボードにしやいいのにな。」
「そうだねぇ。粉すごい。」
「おら!」
「うわ、触んないでよ!」
手洗い場に手を洗いに行った後、日誌を提出するために職員室に向かって歩き出した。
「部活なくなると暇なんじゃない?」
「ん?おー、暇。」
昇降口に向かう途中、例の柱の横を通る。
「誰かぶつかった後あったね。」
「間抜けだなぁ。」
そんなことを話して笑って、ふと藤真を見上げる。
「…あれ?」
「なんだよ。」
「そんなとこ、どうやったら怪我すんの?」
自分のこめかみの辺りをトントン、と指で示すと、藤真は少し考えるように目線を彷徨わせた後、またこちらに戻す。
「バスケは意外と激しーんだよ。」
「だからってそんなとこ怪我する?」
「事実してんだろ。」
「…そーだけど。」
そんなこと言われちゃそれ以上言うことないし、珍しく藤真が掘り下げられたくなさそうな空気を出したから口を噤んだ。
「…ね、選手兼監督ってどうだった?」
「え?ああ、楽しかったぜ。」
「へえ。向いてるかもね、藤真。」
「そうかぁ?あの面子だったからなんとかなったんだと思うぞ。」
「確かに。花形のお陰。」
「おい。」
靴を履き替えながら話題を探す。おかしいな、こいつと居る時、わざわざ話題を探したりすることなんかなかった。
「辛い時もあったんじゃない?」
「別にー?」
「あ、躱された。」
「躱してねーよ。…ま、これはこれで楽しかったし、監督って役割がなきゃないで楽しかったんじゃねえの?」
「バスケバカだね。」
「褒め言葉だな。」
「おめでたいやつ。」
「はは…。ま、どうしても嫌なら顧問に頼んで外部コーチでも据えれば良かった話だしな。」
先に履き替えた藤真が歩き出す。待ってよ、と私が顔を上げるのと藤真が振り返るのが重なった。
「おせーぞ。」
西日に照らされたその笑顔が妙に綺麗で、私の鼓動は少しテンポを上げる。あれあれ、待ってよ、まるで私。
恋、したみたい。