*【藤真】彼はグリーンのサウスポー
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俺の高校バスケが終わった。最後も結局全国には行けなかったけど。やっぱり牧が立ちはだかったけど。それでも、やりきったとは思う。
そんなこんなで熱を出した、俺。そんなヤワな体してたか?
「ええ!?私が!?」
「いーじゃねえか、仲良いんだし。ほら住所。」
「彼女じゃあるまいし。」
なんで私が藤真の家までわざわざ行ってやんなきゃいけないのよ。別に今日もらったプリントはどれもこれも急ぎじゃないじゃん。…や、これは急ぎかも。三者懇談案内。
「じゃー頼んだぞ〜。」
えー!?本当に!?世話が焼ける…。元気になったらたかってやる。外を見るとゴロゴロと雷が鳴っていた。ふざけんな。
『お前が、エースや。』
「……っ!」
すっかり沈めておいたはずの記憶が蘇る。跳ね起きて、しばらく息を整える。怖いとか、痛いとか、そういうのではないが、なんとなく気持ちが悪い。あいつのことを赦すとか赦さないなんていうのも、もうどうでもいい。
外を見ればすっかり暗くて、時計を確認するが日が暮れるような時間でもない。なんだ、雨か。携帯を見ると、何度か着信があったようで、その主に折り返すと、一際大きな雷が鳴った。
『ちょっと!なにやってんの!』
「うるせえ。何って…体調不良だからねてたんだよ。」
『今アンタん家の前!夕立ひどいよ、早く帰りたいんだけど!』
「…待て、意味がわからん。」
『担任にお遣い頼まれたのよ、プリント届けに来た。』
「は?すげー雨降ってんじゃん…すぐ開ける!」
慌てて部屋から出て階段を降り、玄関を開ける。沢上が壁に張り付くように立っていた。玄関には屋根があるが、吹き込んできていてずぶ濡れだ。
「傘持ってなかったのかよ。」
「折り畳みはあったけどこの雨じゃあんま意味ない。」
そう言ってクリアファイルを押し付けてくる。
「これ。三者懇談の日程のこととかあるから。課題は…まあ見りゃ分かるでしょ。お疲れ。じゃあね、お大事に。」
そう言うや否や傘を差して帰ろうとする沢上の腕を掴む。
「な、なに?」
「雨、弱くなるまで居ろよ。」
「いいって、もう濡れちゃってるし。」
「いいから、居ろよ。」
「なに、どうしたの藤真。怖い夢でも見た?」
振り返って首を傾げる沢上。言い当てられて言葉に詰まる。いや、怖い、と言うか、…悪夢というか。
「…そーだよ。こんな雨の日は…1人だと気が滅入る。」
思わず口に出して俯いた。沢上がどんな顔をしているかはわからないが、俺は掴んでいた手を離す。
「帰るってんなら、まあ、いいけど。」
「…いいよ。」
沢上は俯いていた俺の頭を撫でた。
「お疲れ様。監督までやってて、偉かったじゃん。これからは気楽にバスケ出来るね。」
顔を上げたら、沢上は笑っていた。馬鹿にするような風ではなく、まるで、労わるように。
「その前に、受験だけどね。」
そう言って、今度はいたずらっぽく笑った。俺もつられて笑う。
「仰る通りだな。」
今度は腕じゃなく手を引いて、家に招き入れる。しばらく雷は鳴り続けたが、心はすっかり落ち着いていた。