*【南】venez m'aider
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想いは募る。
『暇やろ。』
「失礼でしょ。」
受話器の向こうで、はいはい悪うござんした、と全く悪びれずに言う恋人に千聡は口を尖らせる。
「それで、なんのご用でしょうか。」
『オープン戦のチケットが手に入った。三塁側内野席。』
「乗った。いつ?」
『今日。だから暇やろ言うたんや。』
(この男は…!)
時計を見る。お腹が空いたな、と思っていた頃だ、12時半。
『ナイトゲームやから安心せえ。昼飯食ったか?』
「まだ。お腹すいた。」
『飯食いに行くか。』
「いく。」
『迎えに行くわ。どのくらいで支度できる。』
「40秒」
『言うたな。』
「うそ、ごめん、15分ちょうだい。」
『…はは。ええで。じゃあまたこっち出る時連絡するわ。』
(いま…)
『…なんや、寝たか。』
「烈くん、素面なのに笑った。」
『俺かて笑うわ。なんやと思ってんねん。じゃあ切るで。』
「あ、うん。また後で!」
(私から切るまで切らんくせに。)
「烈くんって一人暮らしなん?」
「おかしいか。」
「府内に実家あるのになと思って。」
「ガキやあるまいし。」
南の運転する車の助手席に座り、千聡はその横顔を眺めた。思いの外安全運転なことに内心驚いていた。
(もっと舌打ちしたりするのかと。)
「あんま見んな。」
「減るもんじゃないから良いじゃん。」
「その言葉、覚えとけよ。」
南が不穏な笑みを浮かべたのを見て、千聡は身震いした。
「良い試合だったね!」
「…そうやな。」
広島が快勝し、千聡は機嫌良く笑っていた。南は溜息をつきつつ、横目で助手席を見て微笑む。
「でも烈くんお酒飲めなかったし、テンションいまいち上がらなかったんじゃない?」
「…おー。」
「勝者の余裕じゃ、車置いて飲みに行く?」
「…せやなぁ。」
南は少し考えた後、思い付いたように口を開く。
「店探すの面倒やし、うちで飲むか。」
「烈くんが良いならいいよ!コンビニで色々買ってこ。私が奢りまーす。」
「勝者、余裕やな。」
二つ返事の千聡を横目で見遣り、南はコンビニに入ってギアをバックに入れ、助手席のシートに肘をつく。
「この時間から男の部屋に来る意味、分かっとるんか。」
その言葉に、千聡の表情が固まる。南は駐車を終えるとサイドブレーキを上げ、エンジンを切った。車を降りようとしない千聡を見て不敵な笑みを浮かべる。
「さっきまでの調子はどないしてん。」
「あ、や…。」
「…くく、やめやその顔。ええから降り。なんにしても酒入ったら送れんからうち泊まってけ。嫌がるような事はせん。」
くつくつと笑いながらそう言って南は車のドアを開ける。千聡も慌てて降り、南の後を追う。自動ドアをくぐると南はカゴを取り上げ、トラベルセットの棚の前に立つ。
「ちんたらしとったら勝手に選ぶで。」
「やめて、自分で選ばせて。」
南は笑いながら酒類売り場に歩いていった。千聡は頬を染めながら必要なものを選んだ。