*【南】venez m'aider
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一度伝えた想いは、行き場を探している。
「南はもうすぐ関西学生大会やな。」
「おう。」
「仕上がりはどうなん?」
「…微妙。」
あれから熱も下がり、いつものメンバーで飲みに行った。芽衣は相変わらずふわふわと笑っていて、反省しない女だな、と呆れてしまう。
南くんは、普通だ。
何も変わらずいつも通り飲んでいて、岸本くんや土屋くんと楽しそうに話している。私ばかり意識しているみたいでなんだか…
…腹立つ。
「賀茂鶴、冷で。」
だから、飲んだる。
「な、なに、どしたの千聡。」
芽衣は少し引いていた。もーいい。潰れたら岸本くんと土屋くんに送ってもらお。南くんがぎょっとしてる。いい眺めね、ふふん!
「千聡ちゃん、どうしたん?僕もそれ飲んでいい?」
「いいよ、のものも!はーやってられん!」
「本山荒れとんな、なんや、振られたんか。」
「似たようなもん!」
「…振ってへんやろ。」
「つよぽんなんか言った?」
「なんも。」
なにこれ、全然酔わん。こういう時に限ってなんなのよもう。
「僕はもう限界です。お腹いっぱいです。」
「土屋珍しいな。」
「だってみのりん… 千聡ちゃん強過ぎや。ザルやんけ、怖い。」
「おい本山、その辺でやめとけ。」
「南くんに言われんでもやめとくわ!1人で帰れるようにしとかんとな!」
「送るからええって…」
「知らんうるさい放っておいて!」
私の剣幕に南くんは流石に引いてる。こうなりゃ自棄だ。
「あー…今日はこの辺にしとくか。」
南くんが頭を抱えて呟く。土屋くんと岸本くんもそうやな、と頷く。芽衣は私を抱き締め、背中をトントンと叩く。…ありがと。でも泣いちゃいそうだよ。
「じゃ、南くん、千聡のこと頼むね。」
「高橋のことは俺らに任せとけ。」
「今日はかなり大丈夫そうやしな。」
「私1人で帰るよ!」
「… 駄々こねんな本山。行くで。」
有無を言わさず南くんが私の腕を掴んで歩き出す。私は慌ててついていく。
「あの2人、どうなってんの。」
「んー、なんかいい感じなんちゃうん?」
「誰か知らんに振られたんちゃうんか本山は。まあええわ、もう一軒行くか?」
「せやな、行こか。」
「うん、行こー。」
いつもの道を2人で歩く。しん、と静まり返った暗い夜道は、頼りない外灯に照らされて胸をざわつかせる。
「…もう、本当に大丈夫だから。離して。」
「…。」
南くんは黙ったまま。なんなの、どうしたいの、私の気持ち、どこへやってしまったの。
「…アホ。」
「なんやて?」
「バカ!アホ!つよぽんのアホ!」
「つよぽんやめ。」
「烈くんの馬鹿ぁ!」
「…急に名前で呼ぶなや。」
深い深い溜息をついてこちらを見下ろす。うるさいな、もうなんでもいい。どうにでもなれ。
「お前の声で名前呼ばれると…緊張する。」
「は?」
「二度は言わん。」
「…へへ、ざまあ。烈くん、烈、つよぽん。」
「黙れて。」
「やだ、黙んない。私ばっかり緊張して馬鹿みたい。烈くん、つーよーしくん、つよ」
不意に口が塞がれる。顔が近いなぁ、なんて、私の脳は随分おめでたい。
「… 千聡。好きやで。」
柔らかい低音が耳から侵入して、身体中を巡る。いま、なんて。
「…俺かて緊張してんねん。全然酔われへんかったわ。」
「う、そや。殆ど飲んどらんかったやん。」
「よう見とるな。」
「…別に。」
南くんは、ふ、と笑い、また口を開く。
「酔うわけにはいかへんやろ。」
「なんで。」
「…ちゃんと言うて、約束したからな。」
さっきの言葉を思い出す。みるみるうちに私の顔は茹っていった。なかったことになったと思っていた温もりは本物だった。あの時の言葉は、嘘じゃなかった。
「南く」
「なんや、名前はもう終わりか。」
「千聡。」
だめ、そんなの反則。まだしばらく苗字呼びでいいよ。あ、でもやっぱり名前がいいかな。君の声は、とても心地がいい。