*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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文化祭は文化祭で、なかなか盛り上がる。
中学とは違い、かなり自由でやることも凝ってるな。そんなことを思いながら、佐和はクラスの宣伝をして練り歩いていた。
ギャルソンエプロン、白シャツ、ダブつかないジャストサイズの黒いチノパン。その出で立ちはカフェ店員さながら。
「あんたと仙道は看板持って校舎一周してきて。」
美代に言いつけられ、その通り歩いているのだが、なかなか結構これが大変で。
3年の教室の廊下から攻めていたが行く先々でしっかり声を掛けられ、なかなか進まない。
(仙道はへらへらと笑ってるからなに考えているか分かんねーし……。)
「仙道は見栄えがするな。」
「似合ってる?」
「うん、イケメン。」
「はは、ありがとー。」
佐和と色違いの濃紺のシャツはボタンを外して首元を程よく開け、袖は上腕辺りまで捲られている。ギャルソンエプロンとチノパンを違和感なく身につけていて様になっている。
「ちょっと暑いけど。」
「しょーがないよ。」
仙道は佐和を見下ろすと、シャツの合間から見える痣に眉を顰める。
「佐和ちゃんはシャツしめとこ。」
「なんでだよ、暑いよ。」
ボタンを掛けられ文句を言う。
「剣道で作った痣が目立っちゃう。」
(煽られてる気がして俺がもたない。)
佐和は不機嫌そうにしていたが、その言葉に黙って従った。
佐和は、ふと仙道の腕に目をやる。腕まくりをしたその手首に腕時計があった。
「そんなんつけてた?」
「日下部に付けてくよう言われた。」
「助かるね、今何時?」
時計を確認して、目で合図する。
『少し急ごう。』
予想以上に時間が経っていた。
2年のクラス前を歩いていると、池上に声を掛けられる。
「寄ってかねぇ?」
「池上さんのクラスなにやってんですか?」
佐和は尋ねながら看板を見て、顔を強張らせた。
「お化け屋敷だ。定番ですね。」
仙道は楽しそうに笑っていた。
「結構自信あるぞ。」
「い、いえ、私たちちょっと時間押してるんで…」
「いいじゃん、行ってみようぜ高辻。」
「何言ってんだよ、美代に怒られるって。」
「大丈夫大丈夫。さ、いこーか。」
持っていたクラスの看板を池上に預け、抵抗する佐和の手を引き、仙道は進んでいった。
(暗い…暗い…。)
仙道の後ろについて歩いているが、その暗さに見失わないか心配になる。
「ぎゃっ」
「おお、よくできてんな。」
仙道は驚きながらもからからと笑っている。
(なんで平気なの、天才おそるべし…)
佐和はお門違いなことを考えながら進んでいると、突然足を掴まれる。
「……!」
声にならない悲鳴をあげ、思わず仙道のシャツの裾をつかむ。それに驚いた仙道が振り返る。
「大丈夫かい?」
「び、びっくりした…足掴まれたぁ…」
仙道は、あはは、と笑うと、シャツを掴んだ佐和の手を握り、繋いだ。
「これで大丈夫。」
相変わらず暗い道のりだが、佐和は繋いだ手が心強く、気恥ずかしさはあったが、それより安心感を優先した。
一際大きな、割れるような音とともに、壁がドンドンドンと叩かれる。
「……っ!」
佐和は思わず仙道の手を離し、その場にへたり込んだ。それに気付いた仙道が慌てて駆け寄る。
「高辻、どうした。怖かった?」
佐和は耳を塞いで首を振るばかりだった。
その肩は、震えている。
「佐和、大丈夫か、落ち着いて。」
仙道が背中をさすると、佐和は耳から手を離し顔を上げた。
「あ…仙道。ごめん、大丈夫、今行く。」
ちょっと肩貸して、となんとか立ち上がる。
指先は小刻みに震えていた。
「苦手だった?」
下を向いたまま黙っている佐和に、仙道は「ごめん」と謝った。
「違う、仙道が悪いんじゃない。」
佐和は、そうはっきりと言って顔を上げた。
「暗いところにいい思い出がないんだ。」
そう言って笑った。
「池上さん、クオリティすごいっす!びびった!」
出口を出るなり佐和はいつものテンションで池上に詰め寄った。
「だろ?また来いよ。」
「もう来ません。うちのクラス来てくださいよ!」
「ありがとうございました。」
仙道も礼を言い、看板を受け取って歩き出す。
「仙道、シャツ出てる。」
池上の指摘に、仙道も「本当だ」と笑い、直しながら歩く。
「……なんか空気変じゃなかったか?」
池上はポツリと呟いた。
(あんたたち遅い!なにしてたの!)
(お化け屋敷より美代の方が怖いよ…。)