*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校卒業編)
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いつ言おうか迷っていた。
夜道の街頭に照らされた君の瞳があまりに綺麗で、
隠し事はできないと思った。
ただ、彼女は、覚悟をしていたような、
そんな感じがした。
きっかけは夏の合宿で、海外の学生と練習試合をした時の事だった。レベルの高さを見せつけられ、悔しさよりも、わくわくしている自分がいることに驚いた。圧倒的な力を目の当たりにする毎に冴え渡る思考と、湧き上がる闘志。
ここで、やりたい。
そう思い至るのは、自然な事だった。
「アメリカ…。」
「ん、そう。夏頃から外部のコーチに勧められてて。」
佐和の瞳は一瞬揺れたが、すぐに持ち直したように、また強い光を灯した。
「すごい、すごいねぇ。」
「すごくなんか、」
「彰の、バスケを好きな気持ちが成長したんだ!」
嬉しそうに笑う佐和に、俺の方が驚いた。てっきり、なんで黙ってたんだ!って鉄拳食らうか、落ち込まれるか、どちらかだと思っていたから拍子抜けだ。
「わー…驚いた。」
「他に…何か…。」
「なにびびってんだよ。」
「いや、驚かせてごめん。」
「いいよ、隠してたことも、まあ許す。てか、」
「彰の人生なんだから、私がどうこういう筋合いないでしょ。」
…なんだろう。少し、突き放されたような気持ちになる。俺は、佐和にとって、どのくらいの価値の人間なんだろう。
そんなことを一瞬でも考えた自分が馬鹿だったと気付くのに、時間はかからなかった。
とにかく帰ろうよ、と先を急ぐ佐和の声が僅かに震えていた。
俺は大馬鹿野郎だ。佐和なりの精一杯の強がりじゃないか。なんですぐに気付いてやらなかった、なんですぐに、
抱き締めることが出来なかったんだ。
「佐和、佐和!」
「バカ、近所迷惑だよ…」
肩を掴んで、こちらを向かせて抱き締めた。初めて会った時よりも洗練されたその体は俺からすればとても華奢で、うっかり加減を忘れれば壊れてしまうかも知れない。
「やだ…離して。」
「離さない。」
「痛いよ、苦しい。」
「我慢して。」
「…本当に、やめてってば…。」
「泣いていいよ、俺はそれを覚悟で言ったから。」
「…やだ、彰を困らせたくない。」
「困らせて。苦しませて。佐和の特権だから。」
「行かないでって、言ってもいい。そしたら俺…」
「っざけんな!!!行けよ馬鹿!!!」
思わぬ大声に俺は力を緩める。その隙に佐和が俺を押し返す。
「そんなことでやめられる渡米なら最初から言うな!!気休めもいらない!!私を馬鹿にすんな!!」
一気に捲し立てる佐和は、泣いていた。俺は自分の台詞に頭を抱える。分かっていた、そんなことをいえば佐和が怒ることくらい。
「なんとなく分かってた。いつかはそうなるって。」
「佐和…。」
「別に、明日すぐ居なくなるわけじゃないんだから。」
「ん…そうだけど。」
「いつから?」
「9月だよ、向こうの節目に合わせて行く。」
「期間は?」
「2年。」
「ん、わかった。」
佐和は短く返事をすると、俺の手を引く。
「夜はまだ寒いよ。帰ろうよ。…一緒に。」
その表情は晴れやかだった。